トップアイドルは白衣の天使に恋をする

――どれくらい、そうしていたのか分からない

時間の感覚も曖昧なまま、ただうずくまっていた

帰らなきゃ……

ふと、そんな考えが浮かぶ

ここにいても、何も変わらない

ゆっくりと顔を上げる

重たい体を引きずるように立ち上がって、もう一度ファスナーに手をかける

震えは、まだ止まらない

それでも

無理やり指に力を入れて、ゆっくりと下ろした

ガチャ、とロッカーを開ける音がやけに大きく響く

着替えながらも、手の震えは消えない

袖を通すだけで、時間がかかる

いつもなら数分で終わることが、やけに遠く感じる

やっと着替え終わって、ロッカーを閉める

深く息を吐く

……帰ろう

バッグを肩にかけて、更衣室を出る

廊下はいつも通りのはずなのに、どこか遠く感じる

スタッフとすれ違うたびに、視線が気になる

気を遣われてるのも、分かる

それが余計に、苦しい

小さく頭を下げて、そのまま足早に通り過ぎる

外に出ると、夕方の空気がひんやりとしていた

空は、少し暗くなりかけている

……終わったんだ

ぽつりと、そんな感覚が落ちる

でも、何も終わってない

むしろ、ここからなのに

足が自然と重くなる

頭の中は、まだぐちゃぐちゃのまま

スマホが震える

画面を見ると、林くんからのメッセージ

“無事ですか?”

その一言だけで、胸が締め付けられる

返信しなきゃと思うのに、指が動かない

結局、そのまま画面を閉じた

家に着く

鍵を開けて、中に入る

「……ただいま」

誰もいない部屋に、声だけが響く

静かすぎる空間

そのまま、靴もちゃんと揃えられないまま上がって、リビングへ向かう

バッグを置くのも忘れて、その場に座り込む

ふっと、力が抜ける

もう、張るものが何もない

「……つかれた」

小さく呟くと同時に、また涙が溢れてくる

止めようとしても止まらない

手で顔を覆って、そのまま声を殺して泣く

今日一日分の感情が、一気に押し寄せてくる

怖かった

悔しかった

情けなかった

全部が混ざって、どうしようもない

…どうしたらいいの

答えは、どこにもなかった