「……陽貴、くん……」
名前を呼ぶと、抱きしめる腕が少しだけ強くなった
「……やっと呼んだ」
耳元で、低い声が落ちる
その声だけで、張り詰めていたものがまた揺れる
「なんで、来たの……」
絞り出すように言うと、背後で小さく息を吐く気配
「来ない理由、あった?」
短い返事迷いがない
――ドクン
心臓が大きく鳴る
そんなこと、言われたら
また、涙が溢れそうになる
「……っ、私……」
言葉にならない
何から話せばいいのか分からない
怖い
情けない
全部ぐちゃぐちゃで
「失敗、したの……」
やっと出た言葉は、それだけだった
背中越しに、少しだけ間があく
でも、すぐに返ってくる
「その顔見たら分かるよ」
今までで1番優しい声
「……怖かった」
ぽつりと漏れる
「患者さん……危なくて……」
声が震える
「ちゃんと確認したのに……なくて……」
言葉が途切れる
思い出しただけで、胸が締め付けられる
「私が……危険に晒した……」
その瞬間
ぎゅっと、強く抱きしめられる
「違う」
低く、はっきりした声
「でも……っ」
「違うって言ってる」
少し強い口調
逃げ道を塞ぐみたいに
「お前が適当にやるわけないだろ」
……その言葉に、息が止まる
「ちゃんとやった上で起きたことなら、それは“お前のせいだけ”じゃない」
背中を撫でる手は、驚くほど優しい
「自分で自分潰すな」
ぽつりと落ちる声
さっきまでの強さとは違う、少しだけ柔らかい響き
「お前が崩れたら、意味ないだろ」
……言い返せない
何も言えない
ただ、涙がまた溢れてくる
「……っ、ごめん……」
何に対してか分からないまま、謝る
すると
少しだけ呆れたように言われる
「なんでも謝るな」
「……」
「今は泣いていいから」
――その一言で
完全に、糸が切れた
「……っ、う……」
声を押し殺していたのに、もう無理だった
肩が震える
涙が止まらない
そんな私を、陽貴君は何も言わずに抱きしめたまま
ただ、一定のリズムで背中を撫で続ける
落ち着かせるみたいに
守るみたいに
その温度に包まれながら、私はしばらくの間、ただ泣き続けた
