トップアイドルは白衣の天使に恋をする

胡桃side

3日目の朝

まだ人もまばらな時間に、私はいつもより早く現場に入った

「おはようございまーす」

軽く挨拶しながら中に入ると、スタッフが少し驚いた顔をする

「花宮さん、早いですね」

「ちょっとね〜、今日は気分いいから」

適当に笑って流す

本当の理由は別

今日は一ノ瀬紗凪、ヘリの日だったよね

頭の中でその名前を転がす

あの女あの態度

“本当に何もないので”って顔

……気に入らない

ニヤリ、と口角が上がる

「せっかく早く来れたし、胡桃ドクターヘリ?見てみたいなぁ〜」


上目遣いに甘えた声でそう頼むとスタッフが顔を赤くしながら「向こうですよ」と案内してくれる

――チョロい

外に出ると、ヘリが静かに待機している

近くに行くだけで、少しだけ非日常感がある

「すごーい!」

適当に感嘆の声を上げる

中を見せてもらう

機材、コード、バッグ

たくさんの物品が整然と並んでいる

へぇ……こんな感じなんだ

正直そこまで興味はない

でも視線は自然とある一点に向かう

――“ナース”と書かれたバッグ

スタッフが別の説明を始める

その瞬間

ほんの一瞬、意識が外れた

私は何気ない動きで一歩近づく

手を伸ばす

中を開ける

どれでもいいか

深く考える必要はない

大事そうで、でもぱっと見じゃ分かりにくいもの

適当に指にかかるものを掴む

そのまま、さっと自分のポケットへ

音もなく

誰にも気づかれずに

「花宮さん、こっちも見ます?」

「あ、はーい」

何事もなかったように振り返る

心臓は落ち着いてる

むしろ少し楽しい

これでいいでしょ

あの女は、仕事に誇り持ってるタイプ

だからこそ

こういうところで躓いたら、一番効く

現場で困ればいい

焦ればいい

責められればいい

信頼、落ちればいいのに

ふっと笑いそうになるのを堪える

「すごいですね〜、大変そう」

適当に感想を言いながら、ヘリから離れる

ポケットの中の“それ”の存在を感じながら

は〜っ楽しみ!

どうなるかなんて、想像しなくても分かる

ああいう子は、

一回で十分崩れる