トップアイドルは白衣の天使に恋をする

陽貴side 

控え室のドアが閉まったあと、俺はその場に数秒立ち尽くした

……やりすぎた

普通に''素''が出てしまった

さっきの自分の声が、まだ頭の中に残ってる

「教え込む」とか、完全に一線越えかけてた

普通に考えたら引く距離取られる

そういうラインの話だ

なのに胸の奥が落ち着かない

俺は壁に軽く背中をつけて、息を吐く

今日一日ずっとそうだった

現場に入ってから、ずっと

紗凪ちゃんが誰かに話しかけられるたびに、目がいった

林が隣に立ってるだけで、なぜか気に障った

奏が笑わせてるのを見ると、理由もなくイラついた

……最悪だろ自分でも分かってる

仕事だってのに

頭のどこかで「役作り」とか「現場」とか言い訳してるくせに、全部違う

あれはただの感情だ

しかもかなり分かりやすい

独占欲

そういうやつ

ポケットの中でスマホを握る

さっきの紗凪ちゃんの顔が浮かぶ

戸惑ってたし怖がってたな

でも

ああいうのは、放っておくと勝手に周りが入り込む

優しいから断れないから

それが彼女のいいところでもあり男に漬け込まれる所でもある

気づいた時には、俺の手の届かないところに行く

それが一番無理だ

「嫌われるか」

一瞬、そう思った

でもその次に出てきたのは

「でも絶対に離れてやらない」

これが本音だ自分でも呆れる矛盾してる

でも、そこが本質だ

取られたくない

誰にとかじゃない

“誰にも”だ

紗凪ちゃんが他の誰かに笑ってるのが、普通に無理だった

それが林でも、奏でも

善意でも悪意でも関係ない

全部引っかかる

自分がこんなにも独占欲の塊だったことに自分が1番驚いてる

俺はスマホを見下ろす

まだ何も送られてない

当然だ、あれだけ言ったあとだ

すぐ返事が来る方がおかしい

でも

「このまま終わるのはないな」

小さく呟く

終わらせる気は最初からない

あの距離感も、無自覚さも、全部含めて

少しずつでもいい

ちゃんと俺の存在を残す

怖がらせるためじゃない気づかせるため

俺がどれだけ本気か

それだけは、ちゃんと伝える必要がある

ポケットにスマホを戻して歩き出す

まだ始まってもいない