トップアイドルは白衣の天使に恋をする

「……っ」

呼吸が浅くなる

「どういう意味……」

やっとの声

すると彼は、少しだけ笑った

「そのまま」

短い返事でも目は笑っていない

「紗凪ちゃんさ」

指先が肩から鎖骨のあたりへ、ゆっくり滑る

触れ方は優しいのに、決して逃してはくれない

「他の男の前では、ちゃんと警戒して」


そう言って、彼は小さく笑った

その笑い方が、さっきより少しだけ危ない

「できないなら、教え込むしかないね」

――ドクン

心臓が変な音を立てる

「教え……こむ?」

「うん」

あっさり当然みたいに頷く

「紗凪ちゃんってさ」

陽貴君は目を細める

「“嫌です”って言うの、遅いタイプだよね」

「…っ?」

「さっきも」

逃げ道を作らない声
 
「近づいたら固まってたし」

ふっと笑う

でもその目は優しくない

「そういうの、男は都合よく解釈する」

静かな声

「優しい子ほどね」

一瞬だけ沈黙が落ちる

その“現実”だけを置いていくみたいな言い方

「だから」

指先が顎を軽く押し上げる

「ちゃんと覚えた方がいいよ」

「……何を、ですか」

「距離の取り方」

さらっと言われる

それなのに、妙に重い

「誰にでも笑わない」

「近すぎるって思ったら下がる」

「嫌ならちゃんと止める」

一つずつ、淡々とまるで教育みたいに

でも途中でふっと声の温度が変わる

「でないと」


「俺以外が勘違いする」

――それは冗談じゃない声だった

怖いなのに

「……陽貴君以外って」

思わず聞き返すと

彼は一瞬だけ黙って

それから、ゆっくり笑った

「そこ気になるんだ?」

意地悪完全に意地悪

「違……っ」

言いかけると、軽く頭をぽんと叩かれる

「紗凪ちゃん」

声が少し柔らかくなる

さっきまでの圧が、ほんの少しだけ引く

「怖がらせたいわけじゃないんだよ」

その一言は本音に聞こえた

でもすぐに

「ただ、他の男に隙見せてるの見ると、普通にイラつく」

さらっと言い切る隠す気がない

優しさと独占欲が同じ声に混ざっていて、余計に逃げづらい

「俺の言ったこと、分かるよね?」

少し距離を取ったまま、陽貴君がそう言う

さっきまでの圧は少し引いているのに、視線だけは外れない

逃げたら終わる気がして、私は小さく頷いた

「はい……」


そう言うと陽貴君は満足げに笑い「いい子だね」と頭を撫でた