トップアイドルは白衣の天使に恋をする

紗凪side

撮影初日が終わる頃には、外はすっかり暗くなっていた

「おつかれさまでした〜!」

スタッフさん達の声が飛び交う中、私は軽く頭を下げながら廊下を歩く

はぁぁ……緊張した

撮影現場ってこんなに疲れるんだ

ICUとはまた違う疲労感

しかも今日は、奏くんと林くんがずっと隣にいた

「一ノ瀬さんこれ見てください!」

「紗凪ちゃん次どこ行くんすか?」

「一ノ瀬さん飲み物持ちます!」

……二人とも距離が近い近い

でも悪気がないのは分かるから、強くも言えない

そんなことを考えながら控え室前を通った、その時

ガチャッ

目の前の扉が開き腕を引っ張られる

「きゃっ…」

突然のことに頭がついていかない

ガチャ-


扉が閉まり私の目の前にいたのは


「陽貴君……」

「紗凪ちゃん」

低い声

廊下には誰もいない

さっきまでの賑やかさが嘘みたいに静かだった

「お疲れさま」

そう言って笑う

いつもの、優しい王子様みたいな笑顔

……なのに

なんだろう

今日は少しだけ違和感がある

「陽貴君もお疲れさまです撮影すごかったです」

「へぇ?」

一歩、近づいてくる

「ちゃんと見てくれてたんだ」

「えっ、あ、はい……」

距離が近い

自然と後ろへ下がる

すると

トン

背中が壁に当たった

……え?

逃げ場がない

「今日は随分人気だったね」

「……へ?」

陽貴君は私の顔を覗き込む

ブラウンの瞳

でもそこにあるのは、

いつもの柔らかさじゃない

もっと熱くて、

危ない色

「林くんに奏」

名前を呼ぶ声が妙に低い

「二人とも紗凪ちゃんにべったりだったね?」

「えっ……?」

な、なんでそんなこと……

「楽しそうだったよね?」

口元は笑ってる

でも目が笑ってない

ぞくり、と背筋が震えた

「いや、あれは……」

言葉に詰まる

すると

陽貴君は私の髪をひと束すくった

「俺、結構我慢してたんだけど」

――え



“俺”って

驚いて顔を上げる

すると陽貴君は、ふっと笑った

その笑い方は、

王子様なんかじゃない

むしろ

獲物を追い詰めるみたいな、

意地悪な笑み

「紗凪ちゃんさ」

耳元近くで声が落ちる

「無防備すぎだよね?」

「っ……」

「俺以外の男にあんな笑うとか、普通に無理」

ドクンッ

心臓が大きく跳ねる

「陽貴く……」

「今日さ、林くんに名前呼ばれて笑ってたよね?」

「え……」

「しかも奏には顔触るし」

「熱あるかと思って……!」

慌てて言い返すと

陽貴君はクスッと笑った

「ほら、そういうとこ」

指先で頬を軽く撫でられる

熱い

触れられた場所から熱が広がる

「天然で、人たらしで、無自覚」

逃げたいのに、

足が動かない

「……っ」

「ねぇ紗凪ちゃん」

陽貴君――いや、“俺”になった彼は

逃がさないように腰へ手を回した