歌姫の場所。

「なんでこんなに駄目なんだろ」

自分の不運さを俯きながら嘆く。
そしてまた、溜息。

再び顔を上げれば
自分が立っている筈だった場所で
ライブをする男達。
先程まで綿雪の様に優しかった心は
今では今にも雨が降りそうな曇り空。

息を吐く。今度は溜息ではない。
気持ちの区切り…の様なもの。

場所を取られてしまったのでは
しょうがない。帰るしかない。
…私はこの場所でしか歌えないのだから。

それに今日は手が悴んで
ギターを弾ける自信すら湧かない。
いつもの場所に背を向けた。

その時だった。


「今日は歌わないの?」