歌姫の場所。

無言でその場に立ち尽くす。
視線の方向はロックバンドの男達。
…とそれを取り巻く観衆達。

頭にまで響くような大音量。
鼓動は僅かに速まる。
聞いていて興奮を抑えられないような
勢いのあるリズムであった。

── けどこんな日に?

粉雪がちらほらと都会を飾る
こんなロマンチックな日に…?
しかしこれも仕方のない事だ、
と潔く諦める。

…溜息。

今日みたいなこんな日にこそ
人に自分の曲を聴いてもらいたかった。
しっとりとしたギターのバラードに
背景は真っ白な粉雪。
そしてそれに観衆の優しい気持ちが
交わり、素敵なハーモニーになる。

こんな素敵な路上ステージが
出来上がると思っていた。