クロとシロと、時々ギン

 互いにそっぽを向いたまましばらく待っていると、話題に上がっていた白谷吟が相変わらずの爽やかスマイルで現れた。

「おーい。お待たせ」
「遅いぞ、吟」

 シロ先輩が不機嫌そうに文句を言うと、白谷の後ろからひょっこり顔を出した萌乃が申し訳なさそうに頭を下げた。

「すみません、八木さん。遅くなったのは私のせいなんです。白谷さんは定時で上がれたんですけど、私が仕事でミスしてしまって……」
「大したことなかったから気にしなくていいんだよ、萩田さん。それに前もって時間変更の連絡はしておいたし。史郎が短気なだけだから」

 シロ先輩の文句を軽く流しつつ、ニコニコと萌乃を宥める白谷吟。さすが爽やかパーフェクトヒューマン。気遣いが自然だ。

「でも、あの……明日花さんもすみません。お待たせしてしまって」
「白谷先輩の言う通り、事前に時間変更の連絡はもらってたから、そんなに待ってないよ。気にしなくて大丈夫」

 私はムスッとしていた頬の筋肉を緩め、頭を下げる萌乃に手をヒラヒラと振る。それでもどこか気にしている様子の萌乃は、モジモジと視線を彷徨わせている。

「本当に気にしなくても平気だよ」

 私が笑いかけると、萌乃は心配そうにシロ先輩へチラリと視線を向け、一呼吸おいて口を開いた。

「あの、えっと……今さらなんですけど、今日は私もご一緒していいんですか? 皆さんだけでお食事に行かれる予定だったのでは?」
「え? 別にいいよ。たまたまみんな定時で終われそうだったから夕飯を食べに行くことになっただけだし。せっかく萌ちゃんも参加なら、プロジェクト終了の打ち上げってことにしましょう。ね、白谷先輩」

 些細なことを気にする萌乃の不安を、私はさらりと流し店へ向けて歩き始める。
 なぜか言い合いになってしまって不機嫌そうなシロ先輩の顔を視界の端に捉えつつも、私はスルーを決め込んだ。
 すぐ後ろでは、白谷吟がシロ先輩を揶揄うように笑いを含んだ声を投げている。

「史郎。お前、矢城さんを怒らせるようなこと何かしたんだろ?」
「っるせ。俺は別に何もしてない」

 明らかに機嫌の悪そうなシロ先輩のトーンに、あんなにうるさかった私の心臓は凪状態だ。