クロとシロと、時々ギン

 先々のことを考えると挙式にお金をかけられないため、挙式は諦めることにしたらしい。新婦は挙式を楽しみにしていたので残念でならないと肩を落としていたようだ。

 確かに、妊娠が分かったことで挙式を取り止める人は珍しくないと聞く。
 しかし、挙式を諦めるのはあまりにも勿体ない。せっかくの思い出を諦めざるを得ないなんて。胸が痛んだ。
 私の心情を読み取ったのか、三嶋さんが意味ありげに微笑む。

「……そこでご相談なのですが。もう一組、低価格プランを体験していただくというのはいかがでしょうか?」

 なるほど、そういうことか。
 挙式費用は抑えたいが結婚式は挙げたい。低価格プランはまさにそういうカップルを取り込むための企画だ。対象としては悪くない。
 ホテル側としても、顧客は逃したくないだろう。
 しかし、だ。私はチラリと隣のシロ先輩を見る。シロ先輩はしばらく考える素振りを見せた後、ゆっくりと口を開いた。

「今回の挙式の改善点などをフィードバックさせていただくのが私たちの仕事ですが、その時間は確保できそうですか?」

 クライアントの意向を無視することはできない。だが、こちらも仕事である以上、要望に応えるだけでなく、より良いものにする努力が必要だ。それができないなら、この仕事を引き受けるべきではない。
 シロ先輩の確認に、三嶋さんはにっこりと笑った。

「挙式予定日は三ヶ月後になりますので、これからいろいろと決め直すとなると、正直、時間はありません」

(やっぱりそうきたか)

 内心で毒づく。
 クライアントは時として、こうして無理難題を突きつけてくる。
 今回の場合、三嶋さんの言う通り、これから挙式内容やスケジュールを決め直すとなると時間が足りない。

「そうなりますと、こちらでの新たな企画提案は厳しいかと思われます」

 シロ先輩は厳しい顔で首を振った。つまり、今回のような体験型挙式をすぐに提案するのは無理だということだ。
 しかし、そこで引き下がる三嶋さんではなかった。
 私とシロ先輩の顔を交互に見ながら言う。

「本来の契約ですと一挙式ごとにフィードバックを行い、次に活かす流れになっておりますが……。今回に限り、フィードバックは二挙式分まとめてで構いません」