クロとシロと、時々ギン

 パーフェクトヒューマン白谷吟なら、萌乃が無理をしていることに気づいているだろう。

『無理をしても、それは本当の自分ではない』

 白谷吟は、シロ先輩に言われたこの言葉を大切にしている。だから萌乃が本来のペースで仕事をしても、彼が嫌な顔をすることはないはずだ。

「だったら、萌ちゃんのペースで仕事をするべきだよ。自分のペースでできれば、周りを見る余裕も出てくるよ。こんなふうにね」

 私は、萌乃が持ってきてくれたカップを軽く持ち上げて見せた。

「それは……。同じプロジェクトチームの明日花さんは大変そうなのに、私まだ何もできなくて。できることって言ったら、飲み物を持ってくるくらいで」
「でも、ちょうどいいタイミングで持ってきてくれたんでしょ? それって周りが見えてるってことだよ。それに、相手を気遣えるってすごく大事。見えていても何もしない人だっているんだから。思いやりっていうのかな。仕事では、そういう気持ちを持ってる人の方が、ちゃんと仕事してると私は思うよ。だから萌ちゃんも、自分のペースでやればいい。むしろその方が白谷先輩の力になれるんじゃないかな」

 思いのままに言葉を紡ぎ、萌乃と視線を合わせる。萌乃は恥ずかしそうにはにかみ、深く頭を下げた。

「ありがとうございます。そんなふうに言っていただけて嬉しいです」

 顔を上げた萌乃は、どこか肩の力が抜けたような明るい表情をしていた。
 その姿につられて、私も自然と力が抜ける。
 二人で笑い合っていると、ドアを軽くノックする音とともに「クロ〜、どうだ〜」と間の抜けた声がした。シロ先輩が隙間から顔を覗かせた。

「ああ、シロ先輩。ちょうど良かった。資料、大体できたので見てもらいたかったんですよ」

 声をかけると、シロ先輩がダルそうに入室してくる。その後ろには、先ほどまで話題にしていた白谷吟の姿もあった。

「八木さん、白谷さん。お疲れ様です」
「おう」
「萩田さん、お疲れ様」
「皆さん、これからこちらで打ち合わせされますか? でしたら私、お二人の飲み物も入れてきますね」