クロとシロと、時々ギン

 シロ先輩は私の視線など気にも留めず、ニヤリと笑って耳元に口を寄せ、低く囁いた。

「祝いの言葉は言えたんだ。それで十分。もう気にするな」

 理沙とはもう距離ができていた。だから招待を断ったのに、断ったら断ったでモヤモヤしていた。
 理沙に直接お祝いを言えたことで、今は少しだけ心が軽くなっている。
 それは、シロ先輩のおかげだった。

(全く、この人は……どうしていつも……)

 白谷吟と歩き出したシロ先輩の背中を見ながら後ろを歩く。
 私は大きく息を吐いて空を見上げた。
 街中より少し広い空には、いくつか星が瞬いている。都会でもこんなに見えるのかと驚く。
 いつの間にか私の口角は上がっていた。

「……ありがとうございます」

 聞こえないはずの声だったのに、シロ先輩が不意に振り返る。

「おーい、クロ。置いていくぞー」

 あまりのタイミングに喉が小さく鳴る。恥ずかしさをごまかすように大きな声で返事をした。

「今行きます!」

 二人の隣に並ぶと、白谷吟がクスリと笑った。
 なんだかいろいろと見透かされている気がして、無性に恥ずかしくなった。
 咄嗟に前を向いて歩調を早める。
 そんな私をシロ先輩がいつものようにからかい、白谷吟が軽く嗜める。
 それでも絡んでくるシロ先輩を適当にあしらいながら、私たちはのんびり歩いた。

 海が近いとは思えないほど波音は微か。潮風もほとんど感じない。それでも私の心は、波に洗われたように穏やかだった。
 きっと、隣にいる人のおかげなのだろう。
 賑やかな二人に気づかれないよう、そっと微笑む。
 そして二人の会話に割って入るように、明るく声をかけた。

「先輩たち、このままご飯食べに行きません? 今後の作戦会議も兼ねて!」

 二人は一瞬顔を見合わせてから、満面の笑みでうなずいた。

 月明かりに照らされた夜道を三人で歩いていく。心なしか、三人の距離はいつもより近かった。