クロとシロと、時々ギン

「言えたのか?」

 私が小さく首を振ると、シロ先輩はすかさず「ねぇ、ちょっと待って」と理沙を呼び止めた。理沙たちは足を止めて振り返る。

「こいつ、あんたに言いたいことがあるみたいだから聞いてやってよ」

 突然の言葉に私は慌てる。理沙が戸惑いながらも頷いた。
 シロ先輩に背中をトンと押され、前に出される。訝しげに理沙が私を見つめている。
 深呼吸をひとつ。

「あ、あの、結婚おめでとう。招待状もらったのに式行けなくてごめんね。お幸せに」

 一気にまくし立てる。
 理沙はぽかんとしていた。隣の男性も同じように呆気に取られている。
 私は逃げるように踵を返してシロ先輩たちの元へ戻った。
 後ろから理沙が呼び止める声がしたが、振り返って小さく手を振り、それで終わりにした。

 私事で待たせたことを謝ると、白谷吟が「大丈夫だよ」と優しく微笑んだ。受付前で待っていた案内役の女性にも頭を下げ、気持ちを仕事モードへ切り替える。

 女性に先導され、ホテル内を巡る。各施設の説明を受けながら、最上階のレストランへ向かった。
 入口を入ってすぐ、目の前のオーシャンビューに圧倒された。窓に釘付けになっている私を見て、同行していた全員がクスリと笑う。
 恥ずかしくなり、咳払いをしてその場を誤魔化した。

 席に着きメニューを見る。魅力的なコース料理に目を奪われていると「食べる時間はないぞ」とシロ先輩に釘を刺される。そのやりとりを見て、白谷吟がまたクスリと笑った。
 とりあえず飲み物だけ注文する。仕事中なので全員ソフトドリンクだ。
 それから改めて挨拶を交わす。案内してくれたのはホテル管理部の三嶋さん。物腰が柔らかく、穏やかな雰囲気の女性だ。

「あら、白谷さんだけ部署が別なんですね」

 名刺を見た三嶋さんの問いに、白谷吟は爽やかに頷く。

「ええ。僕は二課所属で、普段は個人向けのマーケティングを担当しています。企画の立案は、こちらの二人がメインになると思います」

 その説明に、三嶋さんは納得したように微笑んだ。