クロとシロと、時々ギン

 驚きを隠せない私の様子に、由香里がクスリと笑う。

「ということは、こんなところで油売ってる場合じゃなさそうだね」

 私は由香里に別れを告げて急いで部署へ向かった。エレベーターを待つ時間すら惜しく、階段を駆け上がる。
 フロアに着くと、すでにシロ先輩の姿はない。課長と一緒に先方との打ち合わせに入っているようだった。
 仕方なく、フロアに残っていた社員に新規クライアントについて尋ねる。どうやら由香里の話は本当らしい。

 私はパソコンを立ち上げ、その会社について調べ始めた。
 その企業は、ホテル業を中心に多角的に事業を展開しており、ウェディング事業に参入したのは比較的最近。ブライダル部門に力を入れているようで、挙式プランも充実している。

 ふと理沙の顔が浮かぶ。新しい物好きの彼女なら、こういう話題性のあるチャペルを選んだのも納得だ。

 そんなことを考えていると、打ち合わせを終えた営業部の社員たちがぞろぞろと戻ってきた。その中にシロ先輩もいる。
 私は早速声をかけた。

「お疲れ様です」
「おう。マジで疲れたわ」

 口では疲れたと言いながら、どこかウキウキした表情をしている。仕事への期待感だろうか。珍しい表情に内心驚く。
 だけど、それには触れず、話を切り出す。

「新規プロジェクトって、ウェディング関係なんですね」

 シロ先輩の口角が上がった。

「お! 耳が早いな。そうそう。うちにマーケティングと企画の依頼が来た」

 そう言って資料の束から一枚を取り出す。
 ターゲット層、方向性、予算などが記載されている。目を通していると、ある項目で目が留まった。
 チャペルの収容人数――200人。
 理沙の結婚式はそんなに大規模なのだろうか。
 ふと仕事に関係ないことを疑問に思っていると、隣でシロ先輩が新規事業の説明を始めた。

「今回の依頼は、婚礼プランの拡充が目的らしい。まずはウェディング業界での知名度を上げたいんだと」