クロとシロと、時々ギン

 桜もすっかり散った四月下旬。
 週末には、以前招待状が届いていた同級生・理沙の結婚式がある。

 会場は都内某所の高級ホテルで、料理が美味しいと評判のレストランが入っている。披露宴の料理がどんなものか少し興味はあった。
 でも、迷った末に私は欠席の連絡をした。

 シロ先輩の言葉は、私の心を揺さぶった。
 これまで私は、会話の合わなくなった旧友たちとの繋がりをズルズル続けていた。
 けれど、気持ちの下がる付き合いはストレスになるだけ。意味がないと思った。

 とはいえ事なかれ主義の私には、欠席の連絡ひとつでも心に負荷がかかった。
 断ってしまってからも、「このまま連絡を絶っていいのだろうか」「影で何か言われていないだろうか」と思い出しては胸が疼く。

「はぁ〜」

 今も、ため息が漏れてしまう。
 そんな私の横で、シロ先輩はスマホ片手に電話をしていた。

「はい、今から戻ります。タクシーに乗るので10分もあれば着くと思います。はい? ああ、それは大丈夫でした。はい。それでは」

 通話を切ったシロ先輩は私の方を向き、「行くぞ」と言って歩き出す。
 私は後を追った。

「課長ですか?」
「ああ」

 先ほどの電話の相手は、どうやら上司らしい。

「何か問題が?」
「ん?」
「なんだか深刻そうだったので」
「いや、たぶん大したことはない。けど、先方が突然顔を見せたらしい。間に合うなら俺にも同席してほしいってさ」

 私たちは今月から始まった新プロジェクトのメンバーに選ばれている。

「えっと……それって、私も同席すべきですか?」
「いや、必要ないだろ」
「なら、いいですが……」

 タクシー乗り場へ向かう間も、シロ先輩は立て続けに電話をしていた。眉根を寄せたり首を傾げたり、忙しそうだ。
 そんな先輩の後ろを、私は黙って歩く。
 電話が終わりそうにないので、私がタクシーの運転手に合図してドアを開けてもらう。

 車に乗り込み、行き先を告げると、車はゆっくりと動き出す。車窓を流れる景色を眺めながら、再び胸の内に広がった後悔という靄を吐き出すように深く息をついた。

 やっぱり、面と向かってお祝いを伝えた方が良かったのだろうか。