クロとシロと、時々ギン

 それからシロ先輩はハッとした表情になり、手をパンッと顔の前で合わせた。

「悪い、吟。今日はなしにしてくれ」
「ああ、また今度にしよう」
「すまん」

 白谷は、優しく微笑んだ。
 シロ先輩は私の方へ向き直ると、いつもより少し早口で言った。

「クロ、このあとメシでもどうだ? その……俺が奢ってやる。まあ、あんま高い物は無理だけど」

 予想外の申し出に驚く。白谷吟に視線を向けると、彼は爽やかな笑顔を返してくれた。

「僕のことは気にしないで」

 そう言って手をひらりと振り、一人で社屋へ戻っていく。

「え? 先輩、いいんですか?」
「ああ。あいつとはいつでも予定合わせられるし」
「そうですか。じゃあ……」

 私はシロ先輩をまっすぐ見つめて言った。

「行きます!」
「よしきた」

 シロ先輩は満足そうに笑い、私の頭をクシャリと撫でた。

「ちゃっちゃと仕事片付けてくるわ。適当に店決めて、先に食べててくれ」

 そう言うや踵を返し足早に社屋へ戻っていくシロ先輩の後ろ姿を見送ったあと、私は近くのコンビニへ向かった。
 新しいリップクリームを購入してから、時々先輩とランチをする店へ行く。メイン料理を頼むとスープとサラダ、そしてドリンクが付いてくるその店は、シロ先輩のお気に入りの店だ。

 店に入り、窓際の席に腰を下ろす。メニューを一通り見てから、私はドリアを注文した。それから鞄からスマホを取り出し、メッセージを送る。

“いつもの店にいます”

 すぐに既読がついた。
 シロクマが了解のサインをしているスタンプが届き、私はくすりと笑って画面をオフにした。

◇◆◇◆◇◆

「お待たせしました」

 料理が運ばれてきた。「いただきます」と手を合わせ、まずは温かいスープを一口。そしてスプーンを手に取り、ドリアを口に運んだ――そのときだった。
 カラン、と音を立てて店の扉が開く。反射的にそちらを見ると、肩で息をするシロ先輩が入ってきた。

 私は小さく手をあげる。

「すまん! 遅くなった!」

 私を見つけたシロ先輩が、そう言いながら駆け寄ってきた。

「大丈夫ですよ。料理も今きたところですし」

 私が答えると、シロ先輩は安堵したように笑った。

「そっか。あ〜、腹減った」

 シロ先輩は私の向かいにどかりと座り、メニューも見ずにオムライスの大盛りを注文した。