クロとシロと、時々ギン

 営業先からの帰り道、少し遅めのランチを取ろうとファミレスの入口を開けると、途端に甲高い喧噪が私たちを包んだ。
 喧噪に圧倒されながら店員に二名であることを告げると、「空いているお席へどうぞ」と言われ、私は振り返った。

「どこにしますか?」
「どこでもいいけど、なるべくあそこからは離れたい」

 そう言って、シロ先輩は眉根を寄せながら、店の中央付近――ドリンクバーの近くに陣取る女子高生の一団を顎でしゃくった。

「じゃあ、窓際の方にしましょう」

 女子高生たちから少しでも距離を取り席に着いたが、あの年頃特有のキャッキャとした話し声は店内に響き渡り、あまり意味がないようだった。

 それぞれが適当に注文を済ませると、シロ先輩は椅子の背もたれに体を預け、深くため息を吐いた。彼女たちの声にイライラしているのかもしれない。
 私が席を立ち、ドリンクバーに二人分の水を取りに行く。
 女子高生たちの席では「ご卒業、おめでとうございま~す」という華やいだ声とともに、ちょうど色紙らしきものを渡しているところだった。

(そうか。もうそんな時期なのか)

 社会人になり春が忙しいという意識はあれど、生活環境や人間関係が変わることにドキドキすることはなくなったのだと気づく。
 もちろん、会社にも春には新入社員が入ってくるし、部署の異動もあって新しい人間関係の構築は必要になる。だが、学生の頃ほど生活環境や人間関係が目まぐるしく変わることはなくなった。

 私は平凡な学生生活を送っていたが、どちらかといえば新しい人間関係を築くのに時間がかかる方で、春は少し苦手だった。卒業のシーズンは特に憂鬱だった。友人と離れるからというより、新しい関係構築に怖気づいていたのだ。

 次のステップへ進むより、その場に留まっていたい派の私。
 だから、社会人になってからのあまり変化のない人間関係には少なからずホッとしている。特に入社以来、常に行動を共にしているシロ先輩のことは、一緒にいると心地良いとさえ感じている。

「お水、氷なしで良かったですよね?」
「ああ。サンキュ」

 コップをコトリとテーブルに置き声をかけると、シロ先輩は背もたれから体を起こし、相変わらず盛り上がっている女子高生たちへチラリと視線を向けてから、コップへと手を伸ばした。