クロとシロと、時々ギン

 シロ先輩は優しくない。はっきり言って人に対してがさつだ。
 だけど、嫌いにはなれない。
 基本は仏頂面なのに、たまに見せるはにかんだ笑顔がまるで子犬のようで、思わず目を奪われる。

 ニカッと笑ったシロ先輩のドアップに驚いて、私はパチリと目を開けた。

 カーテンの向こうは眩しいほど明るい。
 キンとした空気に思わず布団を引き上げ、頭まで被って丸くなる。

 激しく跳ねる鼓動を抑えたくて、しばらくそのままじっとしていた。
 どんな夢を見ていたのかは分からない。
 けれど、最後に見たシロ先輩の笑顔が脳裏から離れない。
 心臓はバクバク、頬も熱い。私はベッドの上で一人身悶える。

 しばらくそうしていたが、布団の中が息苦しくなり、ぷはっと顔を出した。
 冷たい空気はほてった頬にちょうど良かった。

 丸まった身体をぐっと伸ばしてから、充電していたスマホを点灯させて時間を確認する。
 いつもよりかなり早い時間に起きたようだ。だけど、目が冴えて二度寝する気にもなれない。
 どうしたものかと考えながら、とりあえず顔を洗うために部屋を出た。

 今日は土曜日。仕事はない。
 ぼんやりと今日の予定を思い浮かべる。久しぶりに買い物に行こうか、それとも映画にでも行こうか。
 休日の過ごし方を考えていたはずなのに、ふと気づくとまたシロ先輩のことを考えていた。

 私は頭をブンブン振る。

(ああ、もう! 違う!)

 頭を切り替えようとするが、何も思いつかない。
 結局またシロ先輩のことが過りそうになり、慌てて打ち消そうとする。
 そんなことを繰り返していた時、スマホがメッセージの着信を知らせた。ハッとして画面を見る。

“今日、時間取れない?”

 相手は母だった。私は一瞬迷ったが、すぐに返信を打つ。

“大丈夫だよ。何?”

 送信して間もなく返事が来た。

“ちょっと話したいことがあるのよ”

 そんな短い文に違和感を覚えながら、了解のスタンプを送って会話を終わらせる。
 珍しいと思った。母は普段あまり私を呼び出さないし、用事がある場合は、大抵は電話をしてくる。
 しかもこんな朝早くに呼び出してくるなんて初めてだった。