クロとシロと、時々ギン

「おはようございます!」
「クロ〜、朝からでかい声出すなよ……」

 朝の挨拶をした私に、弱々しい声でシロ先輩が抗議する。書類の山に紛れて、デスクには見慣れない二日酔い用の薬が置かれていた。昨日のシロ先輩の酔いっぷりから、もしかしてとは思っていたが、案の定だったようだ。

「シロ先輩、二日酔いですかぁ? 昨日はグデングデンでしたもんね。先輩、あんまりお酒強くないんだから、ちゃんとセーブしないと」

 ニヤリと笑ってみせた私に、シロ先輩はチッと舌打ちして睨み返す。
 私はクスクス笑いながら、手にしていたコンビニ袋をガサゴソと漁り、買ってきたばかりのフルーツパックを押し付けた。

「はい! これ食べてシャキッとしてください。二日酔いにはビタミンCですよ〜」
「お前は元気そうだな……。俺がこんなになってるっていうのに……ズルいだろ……」

 恨めしげに送られてくるその視線をスルーしつつ、私は自席に腰を下ろし、パソコンを立ち上げた。
 程なくして、隣からフルーツの甘い香りが漂ってくる。シロ先輩は早速フルーツに手をつけているようだ。
 これでしばらくすれば仕事ができるだろうと安堵しつつ、私は業務メールのチェックを始めた。

 カタカタとキーボードを鳴らし、何件か返信を終えたとき、隣のシロ先輩が話しかけてきた。先ほどまでの不機嫌はどこへやら、ニコニコしている。フルーツ効果か。

「なあ、クロ。昨日、白ヤギがどうとか言ってなかったか?」

 シロ先輩の問いに、私はキョトンとした。
 確かに言った。だが、そのときシロ先輩は酔いに負けて寝ていたはずだ。

「先輩、酔って寝てたんじゃないんですか?」

 シロ先輩は首を傾げる。

「ああ、ほとんど記憶ない。だけど、そんなことを話したような気がするんだ。あれ? 夢だったか?」

 どうやら記憶が曖昧らしい。

「まあ、白谷先輩と少しそんな話しましたけど。……でも、なんで急に?」
「いや、なんか引っかかっただけ。だって、白ヤギなんてワード、普段の会話で出てこないだろ」

 言われてみれば、確かにそうだ。

「それはそうですけど。でも、それがどうかしたんですか?」
「いや、別になんでもないよ」

 シロ先輩は再び頭痛がしたのか顔をしかめた。もうしばらくは、二日酔いに苦しみそうだ。