クロとシロと、時々ギン

 気づけばシロ先輩が、私のことをじっと見つめている。
 どうしたのかと思っていると、不意に抱き寄せられた。
 シロ先輩の腕の中に閉じ込められて、身動きが取れなくなる。
 シロ先輩は私の首筋に顔を埋めて、匂いを嗅ぐようにスンと鼻を鳴らした。
 その様子がなんだかいじらしくて可愛らしい。
 思わず頭をよしよしとしていると、シロ先輩が私の首元でふうっと息を吐いた。それが妙に艶っぽくてドキッとする。
 そのままシロ先輩の熱に流されそうになったので、私は慌ててシロ先輩を引き剥がした。

「そろそろ、行きましょうか」

 そう言って立ち上がる。
 シロ先輩は名残惜しそうだったが、かまわず先輩の手を引いて歩き出す。

 いつの間にか夕陽が沈んだ海は、夜闇に包まれて真っ暗だ。
 波の音だけが響いている。
 私は隣を歩くシロ先輩の横顔を盗み見る。いつもと同じ、少しだけ不機嫌そうな横顔。
 でも、今はその中に少しだけ違う表情が見える。
 繋いだ手からは確かな温もり。
 私たちの関係は変わったけれど、変わらないものもある。その事実が、とても嬉しい。

 私は、悠然と空に浮かぶ月を仰ぎ見た。

 きっとこれからも楽しいことばかりじゃないだろう。
 喧嘩をしたり、すれ違ったりする時もあるかもしれない。
 それでも、私はこの人となら乗り越えていけると信じている。
 時に導き、時に背中を押してくれる、そんな温かい手を私はいつでも握っていられるのだから。
 私は、あの月のように悠然と構えていればいいのだ。
 そう思ったら、自然と笑みが溢れた。
 私は隣にいるシロ先輩を見上げて言う。

「これからもよろしくお願いしますね、シロ先輩」

 シロ先輩は私の言葉を聞いて一瞬呆けたような顔をしたが、すぐにニヤリと笑みを浮かべた。

「おう!」

 その短い返事が、あまりにもいつも通り過ぎて、私はまた笑ってしまう。

「ところで、私って、無職の人と結婚することになります?」