クロとシロと、時々ギン

 私は必死に言葉を紡ごうとするけれど、上手くいかない。唇がわなわなと震えているような気がしたが、それすらもよくわからなかった。
 シロ先輩は一度大きく深呼吸をすると、私の瞳から決して目を逸らすことなく続けた。

「クロ。俺と結婚しないか」

 私の思考は完全に停止した。
 心臓だけがバクバクと激しく脈打っている。
 真っ赤に染まった太陽が沈んでいく。
 海も空もすべてが朱く染まっている中、シロ先輩の頬も紅く染まっていた。
 
「は? 結婚? 仕事を辞めるって話じゃなかったんですか? どうして……その……結婚なんて……」

 思考停止したままの私が何とか絞り出したその言葉に、シロ先輩は、一瞬キョトンとした顔をする。
 そうかと思えば、すぐに苦笑いを浮かべた。

「すまん。緊張して……話す順番間違えた」

 シロ先輩はバツの悪そうな声でぽつりと呟いた。
 それから少しの間押し黙っていたが、やがてハッキリした声で語り始めた。

「俺は、お前のことを大切にしたいと思ってる。だけど、それだけじゃないんだ。ずっと一緒にいたい。これからも、二人で同じ景色を見ていきたい。そう思っていた。だから、このまま仕事も続けていこうという気持ちになっていた」

 私だってそうだ。
 シロ先輩の言葉に、心臓が大きく跳ね上がる。

「だったら……だったら、どうして仕事を辞めるなんて言うんですか?」

 気がつけば、自分でも驚くほどの大きな声で叫んでいた。
 目の前がチカチカと点滅している気がした。うまく頭が回らない。
 すると、シロ先輩が私の手を強く握ってきた。

「おい、クロ。落ち着けって」