クロとシロと、時々ギン

「このジンクス、一説によると、体験することによって脳内になんとかっていう満足感を感じる成分が分泌されて、それが結婚願望を抑えてしまうのだそうですよ。ですから、もしご予定があるのでしたら、早めにお決めになられた方がよろしいかもしれません。せっかくのご縁を台無しにしてはいけませんから」

 三嶋さんは、そう言うとまた笑った。
 私は何も答えられなかった。シロ先輩の顔を見る勇気もなかった。
 だって、私たちの間で、そんな話が交わされたことなど全くなかったから。
 沈黙が続く中、白谷吟が急に明るい声で言った。

「さすがはプロ! やっぱり分かりました?」

 白谷吟がニヤりとシロ先輩を見た。
 シロ先輩は呆れたようにため息をつく。それから、自身の髪をクシャリと掻き上げた。困った時にシロ先輩がよく見せる仕草。
 まぁ、そうだろう。結婚話を突然振られれば、誰だって答えに窮する。
 白谷吟がさらに続けた。

「結婚式を挙げるのに人気のシーズンって、あったりしますか?」

 いつもは周りの空気をきちんと読み取るパーフェクトヒューマンの白谷吟でも、たまにはこうやって思いがけない地雷を踏み抜くこともあるんだな。
 わかっているのだろうか。私たちの間に流れている微妙な雰囲気のことを。
 そんなことを考えていた私は、シロ先輩の少し怒ったような声にハッとした。

「バカ、吟。調子に乗りすぎだ」

 シロ先輩は少し怒ったような顔をしていた。
 白谷吟は小突かれたところを摩りながら、いたずらっぽい目で私たちを見る。

「だって、史郎がぐずぐずしてるから、つい。ねぇ、三嶋さん」

 白谷吟の言葉に私は目を丸くした。
 その言い草は、まるで敢えて空気を読んでいないと言っているようではないか。
 話を振られた三嶋さんは、すぐにおかしそうな笑いを漏らす。

「私も少し出過ぎた真似をしてしまいました。ごめんなさいね。でも本当に、当ホテルでお式を挙げて頂けることをスタッフ一同心待ちにしておりますよ」