クロとシロと、時々ギン

 そう言わなければならない場面なのに、言葉が出てこない。
 私は目の前に立つ白谷吟ではなく、壁際に佇みこちらを見ているシロ先輩の方を見た。

 ここで誓わなければ、全てが台無しになるかもしれない。
 それはダメだと思いながらも、どうしても口が動かない。
 そんな私を見て、白谷吟がふっと笑みを浮かべた。そして、私の代わりに言う。

「もちろん! これからも仕事で助け合うことを誓います」

 白谷吟がそう言った瞬間、会場から笑いが起こった。
 私はハッとした。

「はい。これからも仕事で助け合うことを誓います」

 神父は苦笑いを浮かべて頷いた。「それでは、指輪の交換に移りましょう」そう告げると、三嶋さんが小さな箱を持ってきた。
 箱の中には何も入っていない。それでも白谷吟は私の左手を取り、薬指に指輪をはめるフリをする。
 私も白谷吟の手を取り、同じようにした。

 これで全ての儀式が終わりだ。

「なんとか終わったね」
「えぇ。本当に」

 チャペルの外で待機していたスタッフにドレスの裾を直してもらいながら、苦笑顔の私は白谷吟と並んで立つ。
 しばらくするとチャペルの扉が開き、ゲストがぞろぞろと出てきた。みんな笑顔を浮かべている。特に女性陣は、うっとりとした様子で白谷吟にチラチラと視線を投げている。
 そんなゲストたちを、私と白谷吟は頭を下げながらお見送りした。

 ほとんどのゲストはそのまま帰っていったが、何人かは白谷吟に話しかけてきた。
 どうやら白谷吟と写真を撮りたいと頼んでいるようだ。白谷吟は優しく微笑みながらも、はっきりと断る。
 それはそうだろう。いくらモデルやタレントばりに格好良くても、彼はあくまで一般人なのだから。
 でも、彼女たちが勘違いしてしまうのも仕方がない。それくらい今日の白谷吟は決まっている。

 ゲストからモテモテの白谷吟の隣で苦笑していると、ポンと肩を叩かれた。
 振り返れば、そこには同期の寺田由香里がいた。

「寺田? 来てたの?」
「矢城、良かったよ〜。模擬挙式。そのドレスも似合ってるし」

 由香里は興奮気味に言う。
 私は思わず頬を緩めた。