クロとシロと、時々ギン

「でも、史郎さんがあんたのお仕事の先輩だなんて、本当に何かご縁があるのかしらね」

 しみじみと呟く母の言葉に、私はチラッとシロ先輩を見た。
 ばちりと目が合う。途端に心臓が跳ねる。私は慌てて目を逸らした。シロ先輩の顔がまともに見られない。
 シロ先輩の相手をおしゃべりな母に任せる。シロ先輩はうまく母の相手をしてくれている。

 案外、うちの家族と相性が良いのかもしれない。

 ぼんやりとそんなことを思い、何を考えているんだと一人赤面する。
 調子よく母がお茶のお代わりを勧めるうちに、あっという間に時間は過ぎていった。
 シロ先輩が帰ると言った時には、母はかなり名残惜しそうな顔をしていた。

 シロ先輩を送るため玄関へ行く。靴を履いて振り返ったシロ先輩に続いて靴を履こうとしたところでバランスを崩した私は、思いがけずシロ先輩の腕の中に倒れ込む。
 「あらぁまぁ」と母の華やいだ声が聞こえたけれど、恥ずかしすぎて、勝手にはしゃいでいる母を制する余裕がない。
 シロ先輩の腕の中からそっと目線を上げると、至近距離でシロ先輩と見つめ合う形になった。
 シロ先輩は、じっと私を見つめている。

「大丈夫か?」

 心配そうな声で尋ねられ、私は慌ててコクコクと頷く。
 シロ先輩の手が優しく背中を支えてくれた。ドキドキしながらも、その心地よさにどこかうっとりしていると、背後から母の声がかかる。

「ごめんなさいね、史郎さん。そそっかしい子で。これからもよろしくお願いしますね」

 シロ先輩は私を支えていた腕を離し、ゆっくりと母の方へ向き直った。

「はい」

 その短い一言に私の心は乱される。
 どこをどう歩いたのか全然分からない。それでも歩き慣れた道だから、足は自然に動き、気がつくとあの神社に来ていた。
 もう日が落ちかけていて、空には夕焼けが広がっている。
 夕日に染まった鳥居の前で立ち止まったシロ先輩が、私の方を振り返った。夕陽がシロ先輩の横顔を照らしている。

 私は息を飲んだ。
 歩き慣れた道を歩いてきたはずなのに、まるで別の場所みたいだ。
 世界が輝いて見える。その中でシロ先輩が一際鮮やかに光を放っていた。