クロとシロと、時々ギン

 特に予定もなくブラブラしていただけなので、これといって目的はない。
 だが、このままシロ先輩と別れてしまうのは惜しい気がした。
 仕事で毎日会っているのにそんなことを思うなんて、私の気持ちは自分で思っていた以上に重症らしい。
 どうしたものかと迷っていたら、しびれを切らしたのか、シロ先輩の方から口を開いた。

「この辺って、カフェとかねぇの?」

 そうか。その手があったかと、私の頬が緩む。しかし、それはそれで問題があることに思い至った。

(でも、シロ先輩をどこに連れて行けばいい?)

 この辺りにはカフェと呼べるような場所はない。
 昔からある喫茶店は少し歩けばあるが、そこは近所の主婦の憩いの場で、デート向きではない。それに、もし近所の人にシロ先輩と一緒にいるところを見られたら、どんな噂が飛び交うか分からない。
 そう思うと不安がよぎる。
 グルグルと考え込んだ末、私はとんでもないことを口走っていた。

「あ、あの。シロ先輩が良ければ、うちへ来ませんか?」

 言ってから、自分の発言にハッとする。

(しまった! 私、何言ってんの?!)

 自分の迂闊さに頭を抱えたくなる。いきなり実家に誘うなんて、引かれてもおかしくない。
 恐るおそるシロ先輩の様子を窺うと、これでもかというほど目を見開いて固まっていた。
 私は慌てて言い訳を口にする。

「いや、あの。この辺りってカフェとか無いんですよ。なので、お茶をするなら家しかないかなぁと思って。あ、でも、シロ先輩にも予定がありますよね? 用事でこの辺りへ来たって言ってましたし」

 あたふたと言い募る私の言葉を遮ったのは、プッと吹き出したシロ先輩の笑い声だった。
 それからフッと表情を和らげ、優しい声で言う。

「ちょっと待っててくれ」

 シロ先輩はポケットからスマホを取り出してどこかへ電話をかけ始めた。
 その後ろ姿をぼんやりと見つめながら待っていると、程なくして電話を終えたシロ先輩が戻ってきた。

「さ、お前んちに行こうぜ」