クロとシロと、時々ギン

 シロ先輩は、胡散臭いものを見るような顔で白谷吟を見ている。
 私とシロ先輩の反応に白谷吟はさらに笑みを深め、ゆっくりと言葉を紡ぎ出した。

「史郎はさ、矢城さんから“シロヤギさん”の話を聞いたんじゃないの?」

 白谷吟の言葉に、シロ先輩とそれまで黙っていた萌乃が同時に疑問の声を上げた。

「白ヤギ?」
「シロヤギさんって、何ですか?」

 白谷吟はニコリと笑って答える。

「今話題になっていた、矢城さんの文通相手だよ」

 その言葉は、萌乃に向けたものというより、明らかにシロ先輩に向けられていた。
 白谷吟の視線を受けながら、シロ先輩は腕を組んで考え込む。
 一人蚊帳の外になった萌乃は二人の様子を見守っていたが、すぐに我慢できなくなったらしく、私に話しかけてきた。

「明日花さん。シロヤギさんって?」

 萌乃はもう気になって仕方がない様子だ。私もここまで来たら仕方ないと諦める。

「私の落とし物っていうのが、大切にしてたシロヤギのぬいぐるみだったのよ。それで、そのぬいぐるみと一緒にあったメモに『ボクはここにいるよ shiro yagi〜』って書いてあったの。それは拾ってくれた人のメモだったんだろうけど、当時の私は何だか、そのぬいぐるみからの手紙みたいに思えて……」

 話しながら、近くにあった紙ナプキンに当時のメモを再現して書く。萌乃はますます興味を持ったようで、身を乗り出してくる。
 目を輝かせながら紙を見つめていた萌乃は、しばらくすると首を傾げて私を見る。

「明日花さんは、シロヤギさんの正体を知ってるんですか?」
「知らないわ。そもそも子供の頃に、ほんの一時期交流があっただけだし」

 私の答えに、萌乃は少し考えるような素振りを見せる。
 私は黙って次の言葉を待った。やがて何かを思いついたのか、萌乃はパッと顔を上げる。

「もしかしたらですけど、そのシロヤギさんに、明日花さんは既に再会しているかもしれませんよ!」

 なぜか自信満々に言い切る萌乃。
 私は眉をひそめる。
 私たちの会話が途切れたその時、コホンと咳払いが聞こえた。
 そちらへ視線を向けると、相変わらずニコニコと私たちを見ている白谷吟と目が合った。