*
ずっとずっと、画面のなかの世界に憧れていた。
わたしもあそこに行きたいって思っていた。
でもそれにはすごく勇気が必要で、怖かった。
やってみたいという気持ちだけでは、到底届かない場所だった。
でもあの人を見てから、憧れてから、わたしの世界は変わった。
手を伸ばすことができたんだーー……!
*
新しい制服はとてもワクワクする。でもそれだけじゃない、ずっと憧れていたものだったからだ。
入学式の今日までに、何度着たことか。今日やっと、ちゃんとこの服を着こなすことができるんだ!
「おはよう、お母さん!」
「おはよう、のぞみ。ふふ、すごくいい笑顔ね。いつもなら遅刻遅刻ーって、慌てて起きてくるのに。まだ時間まで1時間もあるわよ」
「えへへ、だって今日は待ちに待った日だもん」
ここに来るまで長かったようで、短かったようで……。
何だかまだ実感が湧かない。
「じゃーん、今日はお母さん特製朝ごはん。ここみと一緒に作ったのよ」
「え、なになに!?」
お母さんと妹のここみが作ってくれた朝ごはんは、とても豪華だった。
カツ丼にわたしが大好きなハンバーグが乗っている。すごい!
「お姉ちゃん起きたんだ。それ作るの大変だったんだからね。あたしだって今日始業式なのに」
「そっか、ここみももう五年生か。頑張ってね! ありがとう!」
「それにしてもお姉ちゃんがアイドルだなんて、信じられないよ」
「お姉ちゃんもまだ信じられない」
そう。わたしは今日から……アイドル!
あの憧れの、天美学院に入学できるんだ!
あれは、一年前のことだったーー……。
小学六年生になったばかりのわたしは、普通の生活を送っていた。
そんなある日、テレビをつけた。するとアイドル番組をやっていて、いつもは興味なかったけれど、なんとなく惹かれた。
『それでは今注目されている中学三年生のアイドル、諏訪 光里さんに登場していただきましょう!』
諏訪 光里さん。その子の第一印象は長い黒髪が特徴的で、とても綺麗で美しい人だった。
歌い始めると、会場がしーんと静まり返った。
“愛さえあれば 必ずできる
願えばきっと 遠くの光を掴める
今 一緒に手を伸ばして
輝いてみない?”
わたしは、いつの間にか見入っていた。光里さんのパフォーマンスに。
光里さんはステージの上ですごく輝いていた。キラキラ光っていた。
……この気持ち。わたしも、アイドルをやってみたい。光里さんに追いつきたい!
そう思って、光里さんが通っている有名なアイドル学校、天美学院を受験した。
もともと歌が好きで、ダンスはまだまだだったけれど、アイドルの素質があると評価されわたしは合格することができた。
「行ってらっしゃい、のぞみ」
「行ってきます!」
天美学院は、家から電車で一時間程かかる距離だった。
今まで満員電車や電車通学を経験したことがないわたしには少し苦痛だった。
でもそんなことも忘れるくらい、光里さんや天美学院のことを考えていた。
……早起きしたから眠くなっちゃった。少し寝よう。
うたた寝して、ハッと気がついた。
……あれ? ここ、どこ?
心臓の鼓動が速くなるのが分かる。どうしよう、初めての電車なのに寝てしまったせいで全然駅名が分からない。
何分寝てた? 乗り過ごした?
スマートフォンで調べるけれど、焦って手が思うように動かない。
どうしよう、どうしよう……!
「大丈夫?」
誰かに話しかけられて上を向くと、信じられない人が立っていた。
「うそ……光里さ……!?」
名前を言ったところで、口を軽く塞がれてしまった。
そっか、光里さんは有名人。電車で名前を言われてしまったらみんなにバレてしまうんだ。
まさか入学早々光里さんに会えると思っていなくて、動揺してしまう。
生で見るのは初めてで、テレビのなかよりとうんと輝いていた。
「天美学院の中等部の子だよね? 顔色悪いけど、どうかした?」
「は、はい……えと、その、寝てしまって、ここがどこか分からなくて……」
恥ずかしい。そんなことで悩んでいるなんて、きっと光里さんに引かれちゃっただろうな。
そう思っていたけれど、光里さんは笑うことなんかなかった。
「そっか。もしかして新入生?」
「はい、そうです!」
「分かるよ。わたしも最初道に迷ったもん」
「え、光里さんも!?」
光里さんは頷いた。
「大丈夫。そうやって失敗を経験して、立ち上がっていくから。次の駅で降りて、一緒に天美学院へ行こう」
「い、いいんですか、ありがとうございます……!」
光里さん、やっぱり優しい。
「あなた、名前は?」
「月川のぞみです!」
「のぞみちゃんね。のぞみちゃんは何で天美学院へ入学を決めたの?」
「それはもちろん、光里さんに憧れたからです!」
そう言うと、光里さんは驚いたように目をぱちくりさせた。
「わたし、ずっと画面のなかの世界に憧れてました。そのときに光里さんに出会ったんです。わたしも光里さんに追いつきたい、そう思いました!」
「そっか、素敵だね。ありがとう。これから一緒に頑張ろうね」
「はい!」
夢みたい。光里さんと会話ができるなんて。
もしかしたら同じ学校だから会話できたらいいな、と思っていたけど、こんなに早くわたしの名前を呼んでくれる日が来るなんて思ってもみなかった。
やっぱり憧れるなぁ、光里さん。
「きゃーっ、見て、光里さんだ! 今日も綺麗!」
「本当だ! 光里さんと一緒にいる女の子、中等部だよね? 誰だろう?」
わっ、わたしのことだ。
光里さんは大スターだから、やっぱりわたしといると目立っちゃうよね。
「着いたわ。ここが天美学院」
「うわぁ……!」
グラウンドが広くて、校舎も大きくて綺麗で、憧れの天美学院の紋章がある!
それにキラキラしたアイドルたちがたくさんいる。
「すごい……」
「じゃあわたしはお仕事があるから行くね。また会おう」
「あ、光里さん、ありがとうございました!」
歩いて行ってしまう光里さんの背中は大きくて、とてもかっこよかった。
やっぱりわたし、光里さんに追いつきたい。そのためには今日から天美学院でアイドルとして頑張ろう!
「おはようございます。新入生?」
「あっ、はい、そうです!」
「じゃあクラス表を見て自分の教室に行ってね」
先輩に言われた通り、クラス表を見てから教室へ向かった。
A組からE組まであるんだ。わたしはB組!
「おはようございます!」
挨拶をしてから教室に入ると、そこにはキラキラしたかわいい女の子たちがたくさんいた。
うわぁ、すごい。やっぱりアイドル学校だけあって、テレビで見たことがある子たちもいる。
「え、もしかしてのぞみ?」
「えっ」
振り向くと、ふんわりボブが特徴的な懐かしい人がいた。
「葵ちゃん!?」
「久しぶり、のぞみ! わたしが転校して以来だね」
「どうして葵ちゃんがここに?」
奥谷葵ちゃん。小学校低学年の頃まで仲が良かったけれど、突然葵ちゃんは転校してしまった。
その葵ちゃんがどうして天美学院にいるんだろう?
「実はね、わたし、アイドルを目指してたの」
「えっ、葵ちゃんが!?」
「うん。だから本格的に頑張りたくて転校したんだ。レッスンと学校の両立は大変だったけどね。そして憧れの諏訪光里さんがいる天美学院に入学した」
わたしが知らない間に、葵ちゃんはたくさん頑張っていたんだ。
「葵ちゃんもやっぱり、光里さんが憧れなんだね」
「うん。のぞみも?」
「もちろん。光里さんみたいを見て、画面のなかの世界に行ってみたいって初めて思ったんだ。でも良かった、知り合いの葵ちゃんがいてくれて」
「わたしも嬉しい。これから一緒に頑張ろうね、のぞみ」
わたしは強く頷いた。
友達だけど、この世界ではライバル。
葵ちゃんはわたしよりもずっとすごいんだ。もっともっと頑張らないと。
「おはよう、新入生!」
「おはようございます」
「わたしは担任の近藤 玲子。よろしく。突然だが、これから新入生お披露目ライブをクラスごとに、体育館でやることになった」
「えーっ!?」
今から!? わたしたちのお披露目ライブを……?
教室中がざわついた。知らない曲の振り付けや歌詞をすぐ覚えないといけないなんて、まだ新入生のわたしにとってはすごく大変だ。
「心配しないで。曲はきみたちの大先輩、諏訪 光里の“愛はそばに”。知らない人はいないでしょう?」
光里さんの曲、“愛はそばに”。
わたしが一番好きだと言っても過言ではない曲。だってその曲がなければ、きっと今わたしはここにいないのだから。
光里さんの曲なら大丈夫、できる!
「みんなの顔、自信がついてきたみたいだね。いいね、おもしろい。それじゃあ出番は一時間後だから、各自練習しておくように。あ、衣装は衣装室から自由に選んでいいよ」
「はい!」
わたしたちは歌とダンスを一通り練習し、残り僅かな時間で一斉に衣装室へ向かった。
そこはたくさんの衣装があって、みんな目を輝かせていた。
「うわぁ、このピンクのワンピースかわいい!」
「これもいいよ、ブルーでかっこいい」
「わたしはこれかな、パープルで綺麗」
「このオレンジの肩出しフリルも捨てがたいよね!」
すごい、みんな自分に似合う色の衣装を手に取ってる。
わたしは何色がいいかな。いっぱいあって迷っちゃう。
「葵ちゃんは何色の衣装にした?」
「わたしはこれ、儚げな水色」
「うわぁ、素敵! 葵ちゃんすっごく似合ってる」
「そうかな、ありがとう。のぞみはどうするの?」
そのとき、頭に思い浮かんだのは……最初に見た光里さんのステージだった。
わたしはこれから初めて、夢にみたステージに立つ。
そばにいてくれる大切な衣装は、やっぱりーー。
「ホワイト」
光里さんが着ていたのと同じ、ホワイトのドレス。
白鳥のように美しくて、キラキラしている。
わたしはこのドレスを着たい、そして光里さんに追いつきたい!
「いいね。のぞみに似合ってるよ」
「ありがとう、葵ちゃん」
「じゃあ行こう、初めてのステージに」
「うん!」
『続きまして、一年B組のみなさんのステージになります』
このステージは先輩たちも先生方もーーきっと、光里さんも見てくれている。
一度きりの最初のステージ、精一杯やらなきゃ!
そう前を向いたとき、ビリッと何かが破れる音がした。
するとーー
わたしの着ているドレスの裾が、破れてしまったことに気がついた。
ずっとずっと、画面のなかの世界に憧れていた。
わたしもあそこに行きたいって思っていた。
でもそれにはすごく勇気が必要で、怖かった。
やってみたいという気持ちだけでは、到底届かない場所だった。
でもあの人を見てから、憧れてから、わたしの世界は変わった。
手を伸ばすことができたんだーー……!
*
新しい制服はとてもワクワクする。でもそれだけじゃない、ずっと憧れていたものだったからだ。
入学式の今日までに、何度着たことか。今日やっと、ちゃんとこの服を着こなすことができるんだ!
「おはよう、お母さん!」
「おはよう、のぞみ。ふふ、すごくいい笑顔ね。いつもなら遅刻遅刻ーって、慌てて起きてくるのに。まだ時間まで1時間もあるわよ」
「えへへ、だって今日は待ちに待った日だもん」
ここに来るまで長かったようで、短かったようで……。
何だかまだ実感が湧かない。
「じゃーん、今日はお母さん特製朝ごはん。ここみと一緒に作ったのよ」
「え、なになに!?」
お母さんと妹のここみが作ってくれた朝ごはんは、とても豪華だった。
カツ丼にわたしが大好きなハンバーグが乗っている。すごい!
「お姉ちゃん起きたんだ。それ作るの大変だったんだからね。あたしだって今日始業式なのに」
「そっか、ここみももう五年生か。頑張ってね! ありがとう!」
「それにしてもお姉ちゃんがアイドルだなんて、信じられないよ」
「お姉ちゃんもまだ信じられない」
そう。わたしは今日から……アイドル!
あの憧れの、天美学院に入学できるんだ!
あれは、一年前のことだったーー……。
小学六年生になったばかりのわたしは、普通の生活を送っていた。
そんなある日、テレビをつけた。するとアイドル番組をやっていて、いつもは興味なかったけれど、なんとなく惹かれた。
『それでは今注目されている中学三年生のアイドル、諏訪 光里さんに登場していただきましょう!』
諏訪 光里さん。その子の第一印象は長い黒髪が特徴的で、とても綺麗で美しい人だった。
歌い始めると、会場がしーんと静まり返った。
“愛さえあれば 必ずできる
願えばきっと 遠くの光を掴める
今 一緒に手を伸ばして
輝いてみない?”
わたしは、いつの間にか見入っていた。光里さんのパフォーマンスに。
光里さんはステージの上ですごく輝いていた。キラキラ光っていた。
……この気持ち。わたしも、アイドルをやってみたい。光里さんに追いつきたい!
そう思って、光里さんが通っている有名なアイドル学校、天美学院を受験した。
もともと歌が好きで、ダンスはまだまだだったけれど、アイドルの素質があると評価されわたしは合格することができた。
「行ってらっしゃい、のぞみ」
「行ってきます!」
天美学院は、家から電車で一時間程かかる距離だった。
今まで満員電車や電車通学を経験したことがないわたしには少し苦痛だった。
でもそんなことも忘れるくらい、光里さんや天美学院のことを考えていた。
……早起きしたから眠くなっちゃった。少し寝よう。
うたた寝して、ハッと気がついた。
……あれ? ここ、どこ?
心臓の鼓動が速くなるのが分かる。どうしよう、初めての電車なのに寝てしまったせいで全然駅名が分からない。
何分寝てた? 乗り過ごした?
スマートフォンで調べるけれど、焦って手が思うように動かない。
どうしよう、どうしよう……!
「大丈夫?」
誰かに話しかけられて上を向くと、信じられない人が立っていた。
「うそ……光里さ……!?」
名前を言ったところで、口を軽く塞がれてしまった。
そっか、光里さんは有名人。電車で名前を言われてしまったらみんなにバレてしまうんだ。
まさか入学早々光里さんに会えると思っていなくて、動揺してしまう。
生で見るのは初めてで、テレビのなかよりとうんと輝いていた。
「天美学院の中等部の子だよね? 顔色悪いけど、どうかした?」
「は、はい……えと、その、寝てしまって、ここがどこか分からなくて……」
恥ずかしい。そんなことで悩んでいるなんて、きっと光里さんに引かれちゃっただろうな。
そう思っていたけれど、光里さんは笑うことなんかなかった。
「そっか。もしかして新入生?」
「はい、そうです!」
「分かるよ。わたしも最初道に迷ったもん」
「え、光里さんも!?」
光里さんは頷いた。
「大丈夫。そうやって失敗を経験して、立ち上がっていくから。次の駅で降りて、一緒に天美学院へ行こう」
「い、いいんですか、ありがとうございます……!」
光里さん、やっぱり優しい。
「あなた、名前は?」
「月川のぞみです!」
「のぞみちゃんね。のぞみちゃんは何で天美学院へ入学を決めたの?」
「それはもちろん、光里さんに憧れたからです!」
そう言うと、光里さんは驚いたように目をぱちくりさせた。
「わたし、ずっと画面のなかの世界に憧れてました。そのときに光里さんに出会ったんです。わたしも光里さんに追いつきたい、そう思いました!」
「そっか、素敵だね。ありがとう。これから一緒に頑張ろうね」
「はい!」
夢みたい。光里さんと会話ができるなんて。
もしかしたら同じ学校だから会話できたらいいな、と思っていたけど、こんなに早くわたしの名前を呼んでくれる日が来るなんて思ってもみなかった。
やっぱり憧れるなぁ、光里さん。
「きゃーっ、見て、光里さんだ! 今日も綺麗!」
「本当だ! 光里さんと一緒にいる女の子、中等部だよね? 誰だろう?」
わっ、わたしのことだ。
光里さんは大スターだから、やっぱりわたしといると目立っちゃうよね。
「着いたわ。ここが天美学院」
「うわぁ……!」
グラウンドが広くて、校舎も大きくて綺麗で、憧れの天美学院の紋章がある!
それにキラキラしたアイドルたちがたくさんいる。
「すごい……」
「じゃあわたしはお仕事があるから行くね。また会おう」
「あ、光里さん、ありがとうございました!」
歩いて行ってしまう光里さんの背中は大きくて、とてもかっこよかった。
やっぱりわたし、光里さんに追いつきたい。そのためには今日から天美学院でアイドルとして頑張ろう!
「おはようございます。新入生?」
「あっ、はい、そうです!」
「じゃあクラス表を見て自分の教室に行ってね」
先輩に言われた通り、クラス表を見てから教室へ向かった。
A組からE組まであるんだ。わたしはB組!
「おはようございます!」
挨拶をしてから教室に入ると、そこにはキラキラしたかわいい女の子たちがたくさんいた。
うわぁ、すごい。やっぱりアイドル学校だけあって、テレビで見たことがある子たちもいる。
「え、もしかしてのぞみ?」
「えっ」
振り向くと、ふんわりボブが特徴的な懐かしい人がいた。
「葵ちゃん!?」
「久しぶり、のぞみ! わたしが転校して以来だね」
「どうして葵ちゃんがここに?」
奥谷葵ちゃん。小学校低学年の頃まで仲が良かったけれど、突然葵ちゃんは転校してしまった。
その葵ちゃんがどうして天美学院にいるんだろう?
「実はね、わたし、アイドルを目指してたの」
「えっ、葵ちゃんが!?」
「うん。だから本格的に頑張りたくて転校したんだ。レッスンと学校の両立は大変だったけどね。そして憧れの諏訪光里さんがいる天美学院に入学した」
わたしが知らない間に、葵ちゃんはたくさん頑張っていたんだ。
「葵ちゃんもやっぱり、光里さんが憧れなんだね」
「うん。のぞみも?」
「もちろん。光里さんみたいを見て、画面のなかの世界に行ってみたいって初めて思ったんだ。でも良かった、知り合いの葵ちゃんがいてくれて」
「わたしも嬉しい。これから一緒に頑張ろうね、のぞみ」
わたしは強く頷いた。
友達だけど、この世界ではライバル。
葵ちゃんはわたしよりもずっとすごいんだ。もっともっと頑張らないと。
「おはよう、新入生!」
「おはようございます」
「わたしは担任の近藤 玲子。よろしく。突然だが、これから新入生お披露目ライブをクラスごとに、体育館でやることになった」
「えーっ!?」
今から!? わたしたちのお披露目ライブを……?
教室中がざわついた。知らない曲の振り付けや歌詞をすぐ覚えないといけないなんて、まだ新入生のわたしにとってはすごく大変だ。
「心配しないで。曲はきみたちの大先輩、諏訪 光里の“愛はそばに”。知らない人はいないでしょう?」
光里さんの曲、“愛はそばに”。
わたしが一番好きだと言っても過言ではない曲。だってその曲がなければ、きっと今わたしはここにいないのだから。
光里さんの曲なら大丈夫、できる!
「みんなの顔、自信がついてきたみたいだね。いいね、おもしろい。それじゃあ出番は一時間後だから、各自練習しておくように。あ、衣装は衣装室から自由に選んでいいよ」
「はい!」
わたしたちは歌とダンスを一通り練習し、残り僅かな時間で一斉に衣装室へ向かった。
そこはたくさんの衣装があって、みんな目を輝かせていた。
「うわぁ、このピンクのワンピースかわいい!」
「これもいいよ、ブルーでかっこいい」
「わたしはこれかな、パープルで綺麗」
「このオレンジの肩出しフリルも捨てがたいよね!」
すごい、みんな自分に似合う色の衣装を手に取ってる。
わたしは何色がいいかな。いっぱいあって迷っちゃう。
「葵ちゃんは何色の衣装にした?」
「わたしはこれ、儚げな水色」
「うわぁ、素敵! 葵ちゃんすっごく似合ってる」
「そうかな、ありがとう。のぞみはどうするの?」
そのとき、頭に思い浮かんだのは……最初に見た光里さんのステージだった。
わたしはこれから初めて、夢にみたステージに立つ。
そばにいてくれる大切な衣装は、やっぱりーー。
「ホワイト」
光里さんが着ていたのと同じ、ホワイトのドレス。
白鳥のように美しくて、キラキラしている。
わたしはこのドレスを着たい、そして光里さんに追いつきたい!
「いいね。のぞみに似合ってるよ」
「ありがとう、葵ちゃん」
「じゃあ行こう、初めてのステージに」
「うん!」
『続きまして、一年B組のみなさんのステージになります』
このステージは先輩たちも先生方もーーきっと、光里さんも見てくれている。
一度きりの最初のステージ、精一杯やらなきゃ!
そう前を向いたとき、ビリッと何かが破れる音がした。
するとーー
わたしの着ているドレスの裾が、破れてしまったことに気がついた。



