すもももももも反抗期!


ママが大事にしていたペットの猫、トラちゃんが死んじゃった。それからもう二週間経つのにママはおいおいと泣いてばかりいるのでうんざりしちゃう。
「ママ、いい加減泣き止んでよ」
パパも私と同じようにうんざりしてるみたいで、
「そうだよ、猫なんてまた新しい子を飼えばいいんだよ」
と言う。すると、ママはくるっとこちらを振り向き涙でぐちゃぐちゃになった顔を見せて、
「ひどい!トラちゃんに替えなんてきかないわ!命あるものをそんな風に言うんじゃないわよーッ!」
すると、1匹の黒い虫が私とママの間を横切っていく。
「あっ、ゴキブリ……」とパパが呟く。するとママが悲鳴を上げて、
「いやーッ!早く殺して!」と叫ぶ。
私は(ゴキブリは殺していいんだ)と思いながら殺虫剤でゴキブリを殺して捨てました。

私の名前は吉田すもも、十四歳の中学二年生。
和文化が好きで、所属している部活動は華道部。得意な教科は英語で、中学二年生で英検三級を持ってるの。すごいでしょ。
平日は学校の制服を着ているけど、今日みたいに学校が休みの日は着物を着ていて、首にはおばあちゃんの形見のルビーのネックレスを肌身離さずつけてるの。
ママの名前は吉田ももこ、四十三歳。お気楽な専業主婦。だけど泣き虫で気持ちの切り替えが下手でいちいちしつこくていつもうんざりしちゃう。
いつもフリルのついたエプロンを着ているけど、料理は全然ダメ。すごくおしゃれで、でもそのかわりお金をたくさん使っちゃう。
パパの名前は吉田亮。五十歳。プロの小説家なの。ペンネームは秘密ね。すごく賢くて優しい最高のパパなの。
ママと違って、料理どころか家事はなんでもできちゃう。だからパパがママの仕事もやってる感じ。

私の家族はこれで以上。本当はここにトラちゃんもいたんだけど、死んじゃったからしょうがない。
トラちゃんはママが結婚して私を産む前から飼っていたオスのキジトラで、亡くなった時はもう二十歳でした。すごい長生きだよね。

ママはそれからもずっと泣いています。見兼ねたパパが、
「しょうがないなあ。トラちゃんの墓参りでもしたら気が済むか?」
ママは大きくうなずきました。
「今から外に出るの? もう夜の八時だよ!」
「いいじゃないかたまには。今日はこと座流星群だから流れ星でも見に行こう」
そう言ってパパはガレージの鍵を開けて車のエンジンをかけたので、私は仕方なく車に乗りました。
トラちゃんを埋めたお墓は近所の河川敷にありました。車をとめると、懐中電灯を持って私たち家族はトラちゃんのお墓へと歩きました。
「ああ、トラちゃん……」
流れ星が降る夜の中、お墓へと着くなり、ままは膝を折り、両手を合わせました。
「歌でも歌いましょう」と私は提案しました。

涙くんさよなら さよなら涙くん
また逢う日まで

君は僕の友達だ この世は悲しいことだらけ
君なしではとても生きていけそうにない

だけど僕は恋をした すばらしい恋なんだ
だからしばらくは君と 遭わずに暮らせるだろう

歌い終わると、後ろから風が吹いてくるのを感じました。
それがだんだん強くなるので、ふと振り向いてみたら、大きなプロペラを回すヘリコプターが私たちの少し遠い後ろに着陸したのでした。
「ねえ、何あれ!?」
強い風に煽られて目を細め、ヘリコプターを見ていると、扉が開き、中から背が高い金髪の男の子が現れてこう叫びました。
「アイ厶アユアーボディーガード! ウェアーイズプラム?」
私はこの英語の意味がすぐにわかりました。
(僕は君のボディガードだ! すももはどこだ?)
私を探してるの?でも、どうして?などと考えている暇もなく、ママが突然、
「トラちゃん!トラちゃんだわ!」
と叫びました。はあ?という表情で私とパパは顔を見合わせます。
「トラちゃん、人間の姿になって戻ってきてくれたのね!」
そう言いながらママは男の子に駆け寄り、ハグをして頭を撫でます。困惑する男の子を見ながら、そうだった、ママは英語が分からないんだった、と冷や汗を拭いました。
「ねえトラちゃん、さっきのネコ語ね?」
「は、はぁ……」
「日本語は話せないの?」
「話せますけど……」
「わあすごい!トラちゃんお利口さんね〜」
ママは男の子にすりすりしながら私たちを指さし、
「トラちゃん、パパとすももよ。みんなトラちゃんに会いたがってたのよ!」
すももよ、とママが言ったところで男の子の表情が少し険しくなりました。どうしよう、ちょっと怖い。
「ねえパパ、トラちゃん連れて帰りましょうよ。こんなところに一人でいちゃかわいそうよ」
パパは少し迷いながらも、
「そうだなあ、それでママの気が済むなら……」
と言いました。私はびっくりしてパパに小声で、
「ちょっとパパ!本当にいいの!?」
と責め立てると、パパも小声で囁きました。
「まあまあまあ。しばらく様子を見てみよう」
こうなってしまったら私はこの謎の男の子を迎え入れる他なくなってしまいました。
「さあトラちゃん、ここに乗って!」
ママが車に案内します。パパが運転座席、ママが助手席、私と男の子が後部座席でした。
さっきよりも近くで見る男の子は、綺麗なストレートヘアの金髪なのに加え、瞳の色が薄いグリーンで、どう見ても日本人ではありませんでした。
「猫は車酔いしやすいんだから、安全運転でお願いね」
とママが余計な心配をします。
「僕は無免許だから、わからないなあ」
パパの言葉にびっくりした男の子は、目を丸くして、
「それは犯罪ですよ!」と叫びます。
「ははは。冗談だよ」とパパ。
私はそんなやり取りをハラハラしながら見ていました。今日からこの人と生活するのだと思うと、怖くてたまらなかったのです。
家に着くなり、ママは捨てずにいたキャットフードを取り出して、
「トラちゃん!大好きだったご飯よ!」
と食べさせようとします。男の子は困った様子で、
「ママさん、ありがたいけど今の僕は人間なので、食べられないんです」
ママははっとして、
「ごめんなさい!そうよね!じゃあツナ缶サラダでもしましょうかね」
なんて、作れもしない料理を作ろうとします。私はそんなやりとりを見るのが馬鹿馬鹿しくなって、ベランダへ外の風を浴びに出て、ため息をつきました。
ここ最近、ママのわがままに振り回されてばっかりで悲しくなっちゃう。それに、男の子が言ってたプラム、ってすもものことよね。勘違いだったら恥ずかしいけど、私のことだったらどうしよう……。
色んな不安がこみ上がってきて一人しくしく泣いていると、後ろからベランダの窓が開く音がしました。そこに立っていたのは男の子でした。
男の子は私の横に来て、「泣き虫なのは母親譲りなんだね」なんて言います。
「ママと一緒にしないでよ……」
「そうだね、君はママさんよりずっと賢い」
「あなた何者?」
「僕はゴールデン・フィッツジェラルド、十八歳。君のボディーガードをするために日本に来た」
すると、夜空には流れ星の中でひとつ、点滅する星がこっちに向かってくるのが見えました。私は飛行機かな?と思ったけれど、ゴールデンはすかさず、私の頭を抑え、
「伏せろ!」と叫びました。
言われた通り体をしゃがませてゴールデンを見上げました。ゴールデンはポケットから小さなピストルを取り出し、点滅する星に向かってバン、バン、バンと撃ちました。
撃たれた星はあえなく爆発。ゴールデンは銃口にフッと息を吐きピストルをポケットに戻します。
「なんなの……?」
私はしゃがみ込んだまま怯えて震えて動きが取れませんでした。
「こんなのはしょっちゅうだ。いいかい、君はとある惑星から狙われてるんだ。僕は君を守るためにアメリカから派遣されたボディーガードなんだ」
「わけわかんないよ〜」
「わからなくていい。僕もまだ全ては君に話せない」
そんなやり取りをしていると、ママがベランダの窓をガラガラと開けて入ってきました。
「トラちゃん!今夜はママと一緒に寝ましょうね!」
ゴールデンは一瞬ギョッとした顔をしましたが、すぐに気を取り直して、
「大丈夫ですよ、ママさん。僕はベランダで寝ます。猫ですから」
「そうなの?ママ寂しい〜」
「ママ、私たちもそろそろ寝なくちゃ。明日から学校だもの」
「そうねえ。じゃあおやすみね、トラちゃん!」

ルビーのネックレスを外して、ベッドに入るなり、私はゴールデンの言葉の意味を考えていました。
(狙われてる?私が?一体何から?)
考えているうちにどんどん瞼が重くなり、気づけばすやすやと眠り込んでしまっていたのでした。