彼女の季節を戻したい


 そんなわけで、柊里がまた半袖の格好に戻ってしまった。
 だが、その実態はそっちのほうが温かいからという理由だ。

 納得がいかない。

 まあこっちのほうが温かい、というのは寒さを自覚してるから言えることだろうから。ましにはなったのかな。
 だけど、寒さを自覚するのなら、長袖に上着を着ればいいんじゃないのか?
 だって柊里は昔は普通に厚着もする妹だったから。

「葵はどう思う?」

 と、そんな話をまた学校で葵に話した。

「私? 私は別にいいんじゃないかな、って思うよ」
「半袖にカーディガンっていう薄着でも?」
「うん。本人がそっちのほうが温かいって言ったんでしょ? じゃあ事実でしょ」
「強がっているだけかもしれないじゃん」
「違うと思うけどなぁ……」

 そうポツリと呟かれた言葉が、不意に印象深く感じられた。
 何か、闇のようなものを感じたからかもしれない。

「どうして?」
「だって、私も昔は普通に寒いって思っていた記憶があるもん」
「……ほんとに?」

 信じられないんだけど。

「ほんとだよ」
「じゃあなんでこんなふうになったの?」
「うーん、慣れ、かなぁ」
「慣れ? 慣れでなんとかなるの?」
「……ほら、私、片親育ちでしょ?」
「うん」

 葵は声を少し潜めて、喋りだした。

「千晴さんも言っていた気がするけど、生活、そこまで良くはなかったからね。お父さんが大変なのも見ていたし、私がわがままを言うと困るのも知っていた。
 だから、夏に、暑いって言って扇風機を付けてもらうのも申し訳なかったし、冬に寒いって言ってストーブを付けてもらうのも申し訳なかった。
 だんだん少しくらいなた我慢しようって思って、それが積み重なって、こうなったんだ。いつの間にか大した暑さも寒さも感じなくなった。手や足は冷えるんだけどね」

 そんな事情があったんだ……
 僕にも、少し、その気持は分かる。
 分かるけど、僕には絶対に出来ないことだ。

 そして、葵は今までの少し暗い声から一転して、明るい声になって言った。

「だから、柊里ちゃんが慣れたっていうのもおかしくないと思うよ、私は」
「そっか……ありがとう」
「ん?」
「わざわざそんな事情を話してくれて」
「あ、そういう? それならどういたしまして。柊里ちゃんの理解の役に立ったなら私も嬉しいよ」
「うん。役に立った。家に帰ったら柊里に詳しく聞いてみるよ」
「うん。そうして」

 そんな感じで、柊里が寒さを自覚し始めたという話は、葵の事情を知って、僕が少し驚いただけで完結した。