右見ても左見てもクズ男とチャラ男!愛され迷惑!

「ご紹介にあずかりましたレインです。今日から三ヶ月間ほどですが、騎士団でお世話になります。配信任務、がんばります!」

 新人団員レインに扮したルイスは、騎士団の面々に向かって気合を込めて挨拶をする。
 緊張で顔も声もがちがちに強張っていた。

(本当にみんな「ガタイの良い男」だ……。目の前が壁。それはそうですよね。護衛任務なんていざとなったら自分の身を盾にして護衛対象を守るわけですから、華奢で務まるわけがなく……私は場違い感はなはだしいです。どこからどう見てもやらせ要員ですよ、申し訳ない)

 話が舞い込んでから昨日の今日で、一番サイズの小さな騎士服を急遽仕立て直してもらって身に着け、髪をまとめて男装して来たものの、あきらかに「新人騎士レイン」は騎士団の中では浮く。こんな貧相な騎士がいるわけがないと、視聴者が白けてしまうのではないかとルイスは戦々恐々だ。

 それでも、拝命つかまつった以上頑張ろうと自分を奮い立たせ、騎士の面々を見回してみる。
 体格の良さに怯んでいたが、その上恐ろしくきらきらとした美形だらけと気づいてめまいがした。王宮勤めの女性たちに人気がありそうな男性ばかりで、会計監査室に採用されて以来右を見る余裕も左を見る余裕もなく、まずは仕事を覚えようと机に向かって書類作業ばかりしてきた自分にはまったく縁のないきらびやかな世界であると思い知った。
 かろうじて縁があるとすれば、義兄にニコラスである。
 この場にいてくれているだろうかと視線で探すと、温和そうな容貌の銀髪で眼鏡の騎士と目が合った。

義兄(にい)さま……!!)

 ルイスがこの任務を引き受けた、一番の理由である。お困りの義兄(にい)さまの力になれるのであれば! その一心であったが……。
 ニコラスの眼鏡の奥の目はいつになく険しく、厳しい表情でルイスを見ていた。たまに屋敷で顔を合わせたときにルイスに向けてくれる、穏やかで優しいまなざしとはまったく違う。「この軟弱そうなチビはいったい何しにここに来たんだ?」と不審がっているのがありありと感じられた。
 まさか、とルイスはこのとき悟ってしまった。

(義兄さまは「レイン」が(ルイス)だとは気づいていないですね……!?)

 そこまで見事に男性に化けられたつもりはなかったが、ニコラスの表情を見る限り男装を()()()()()()()()のは間違いない。彼は純粋に「レイン」の入団を訝しがっている様子だ。
 ここでルイスは、唐突に腹を決めざるを得なくなった。

 ニコラスに会うまでは、どれほど無茶な任務であっても騎士団では唯一の顔見知りで家族でもある義兄を頼ろうという甘えた気持ちがあったのだ。「レイン」が義妹であると気づいたニコラスは、絶対に悪いようにはしないだろうと信じ切っていたのである。
 甘かった。
 自分に課せられた任務だというのに、最初から他人をあてにするなどあってはならない。そんなことでは、いつまでたっても一人前になれはしないだろう。

(だいたい、私は配信の視聴者向けやらせ仕込み要員ですからね。何かしら私がヘマしたり視聴者に「女」とバレたときに、知らなかったならまだしも義妹と知った上で加担したともなれば、義兄さまの評判に悪い影響があるのは必至です。いま私の素性に気づかれていない以上、私はこのまま義兄さまにも正体を隠し通しましょう。義理の兄妹となって十年とはいえ、離れて暮らしていた時間のほうが圧倒的に長いわけですから、他人(レイン)を演じきって気づかれないなど、やってやれないことはないはずです……!)

 まさにニコラスを巻き込んではいけないの一心で、ルイスは心に決めた。

(絶対に、義兄さまに私の正体を隠し通しますね……!!)

 そのルイスの前に、赤毛の青年が進み出てきた。
 ひとの目を惹きつける絶世の美貌の持ち主で、ルイスはこんな美しい男性が世の中にいるものかと息を呑んだ。自分が芸術家であれば「戦う天使」として絵画や彫刻のモデルにしただろう。
 その相手はといえば、琥珀色の瞳に困惑を浮かべており、表情はくもっている。「レイン」に対して何もかも納得がいかない様子で口を開いた。

「第一騎士団は、市中見廻りや市民からの陳情を直接受けて動く部署ではなく、全員が貴族階級の出身で任務の実態も一般には知られていないことから『お飾り』とみなされている向きもあります。ですが、実際のところは王宮内における主要戦闘員であり、日々鍛錬を欠かさずいざというときは要人の盾となり剣を振るうのが仕事内容です。失礼ですが、君のように華奢な青年……少年に務まるとは思えません。怪我をする前に辞退すべきです」

 生真面目そのものの口ぶりで丁寧に諭されたが、ルイスとてここに来たのは「仕事」であり、簡単に追い出されるわけにはいかない。
 即座に「大丈夫です!」と返した。

「皆さんと一緒に、頑張ります! ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします!」

 赤毛の青年は、難しい顔のまま「そうは言っても」と呟き、不意に腕を伸ばしてきてルイスの手首を掴んだ。触れた瞬間「細っ」と声を上げたものの、力加減が追いつかなかったようでみしりと骨が軋んだ。

「あっ」

 痛みに、ルイスは悲鳴を上げてしまう。
 その瞬間、目の前に飛び込んできた一人の騎士が赤毛の騎士の腕を引っ掴んで、ルイスから引き剥がした。

「ランドルフ。子どもに無体を働くな」

 空気を凍てつかせるような冷ややかな口ぶりで赤毛の騎士を制したのは、ニコラスであった。