ソファに紺色のスクールバッグを投げるように置くと、ぼふっと鈍い音がした。
家族がすっかり寝静まった、自宅マンションの一室にその音がやけに大きく響く。
塾帰り、なんとなく帰りたくなくて町をフラフラさまよっていたらすっかり夜が更けてしまった。
帰宅途中のセブンイレブンで買った肉吸いをレンジに入れ、W数と分数を調節して『あたためスタート』を押す。
肉吸いが温まるまでの間、Ankerの黒いワイヤレスイヤホンとスマホをBluetoothでつなぐ。
右耳にイヤホンを差し込み、Top50プレイリストを再生する。
私の耳に、心底つまらない流行りの女性アーティストの曲が流れ込んでくる。
電子レンジのターンテーブルに乗った肉吸いがくるくるとメリーゴーラウンドのように回るのを無感情に眺めていると、音楽がぷつぷつ途切れ始めた。
電子レンジとBluetoothの電波が干渉しあってぷつぷつ途切れたその曲を、やはり無感情に体内に取り込み、時間を確認する。
23時57分。あと3分で次の日を迎える。
「まだ火曜か…」
白猫の写真が大きくあしらわれた壁掛けカレンダーを見やりながらそうひとりごとをこぼす。
誰もいないことをいいことに、口を押さえることなく大あくびをする。
そろそろ出来ただろう、と電子レンジに近寄るとあたため終了を告げるチープなメロディが鳴った。
『電子レンジ』という舞台を照らす、あたたかなオレンジ色の舞台照明が、引き潮のようにすっと消える。
やけどしないように慎重に肉吸いを取り出し、カトラリーが入っている引き出しから自分の箸を取り出す。
ダイニングテーブルに座り、「いただきまーす」と小さな声であいさつしてプラスチックのふたを開ける。
薄っぺらい肉を箸でつまみ、ぽたぽたと垂れただしをカップの縁で軽く落としてから肉を口に運ぶ。
口に広がる、えもいわれぬ味わいを噛みしめる。
リビングのガラス戸の奥で、小さな飛行機の白い光が放物線を描いて遥か彼方へ消えていった。
End.



