夏の蜃気楼と君の横顔

「みあ、今日の放課後、バスケ部の練習試合見に来るだろ?」

昼休み、屋上の隅でパンをかじっている私の隣に、蓮が当然のように腰を下ろした。バスケ部エースの彼は、学校中の女子の視線を集める人気者だ。

「行く行く。蓮のダンク、見逃すわけないじゃん」

私は笑って頷いた。蓮と私はいつも一緒だ。登下校も、休み時間も。
彼の隣が私の指定席で、彼の日常は、私の日常そのものだった。

「当たり前だろ。絶対勝つから、ちゃんと見てろよ」

蓮は私の頭をくしゃりと撫でた。その手の温かさは、もう何年も前から知っている。
蓮のことが好きかと言われれば、間違いなく「好き」だ。
でも、それは「恋愛」の「好き」なのか、私には分からなかった。
あまりにも近すぎて、特別すぎて、その境界線が見えなかったのだ。
そんな私たちの日常に、変化の兆しが見えたのは、午後のホームルームの時間だった。
担任の教師が新しい生徒を紹介した。

「今日からクラスに新しい仲間が増える。九条朔くん」

教室のドアが開き、一人の男子生徒が入ってきた。身長が高く、都会的で洗練された雰囲気。日差しを浴びて少しだけ茶色く見える髪と、切れ長のクールな目が印象的だった。彼は教壇の前に立つと、教室を一瞥し、一言だけ発した。 

「九条朔です。よろしく」

それだけ。笑顔も愛想もない。そのクールな態度が、逆に女子生徒たちの心を掴んだようだった。ざわめきが起こる。

「席は、皆川の隣、空いてるな」

先生の言葉に、私は思わず「え?」と声を上げた。私の隣は、前の席の子が転校してからずっと空席だったのだ。
九条朔はまっすぐ私の方を見て、ゆっくりと歩み寄ってきた。
彼の視線に、少しだけ心臓が跳ねた。彼は無言で隣の席に腰を下ろし、窓の外を眺めた。
蓮がいる側の斜め後ろの席だ。蓮は、朔の隣に座る私を見て、少しだけ眉をひそめたように見えた。