泣き虫の白者

病院の集中治療室。

消毒液の匂いと、機械のピッピッという無機質な音だけが響く。
泣き虫の白者は、ベッドに横たわったまま動けない。
顔はぐるぐる巻きの包帯で覆われ、目も鼻も口も、すべてが白い布の下に埋もれている。
外の世界は、もう見えない。
聞こえるのは、自分の浅い呼吸と、心臓の弱々しい鼓動だけ。
若い研修医が、カーテンを引いて入ってきた。
白衣の袖がまだ短く、名札も新品だ。

「おい、ちょっと。名前は? 身元は? 誰か連絡できる家族いるか?」

白者は、答えたかった。
喉を震わせ、声を絞り出そうとした。
だが——
何も、出ない。
声帯はもう、粉々に砕かれていた。

「……は? 喋れねぇの? マジかよ……」

研修医は呆れたように息を吐き、カルテをパタンと閉じた。

「わかんねぇなら仕方ねぇか。通報した警官にでも聞くしかねぇな」

そう呟いて、踵を返した。
カーテンが揺れ、足音が遠ざかる。
部屋に残されたのは、包帯に閉じ込められた白者の体と、静かな機械音だけ。
白者は、動けない瞳の奥で、ゆっくりと思い出す。
義理の姉貴の優しい手、小さな義理の弟の笑い声。
三人で見た夕焼け。
あの温かさ、あの匂い。
あの、たった一度きりの、家族という名の時間。
もう、二度と戻らない。
それでも、白者の心は、その記憶を繰り返し、繰り返し、抱きしめていた。

どれだけの時間が過ぎたか。
カーテンが、再び引かれる音。
今度は違う足音。
落ち着いていて、確信に満ちた歩み。
キム・ゴヌ。
医師免許は確かに持っている。
ただ、それだけだ。
彼は無言でベッドに近づき、トレイの上に置かれた注射器を手に取った。
極太の針、透明な筒の中に、大量のモルヒネが揺れている。

「もう、十分苦しんだろ」

低い声。
感情はない。
ただ、事実を述べるように。
白者の首筋に、冷たいアルコール綿が触れる。
そして——

ズブリ。

針が深く、深く刺さる。
薬液が、ゆっくりと、確実に、血管に流れ込む。
白者の体が、わずかに震えた。
包帯の下で、白い瞳が、かすかに開く。
視界は、もう何も映さない。
ただ、遠くに、義理の家族の笑顔が、ぼんやりと浮かんでいた。

「……あ……」

最後の息が、掠れた風のように漏れる。
心電図の波形が、ゆっくりと、平らになっていく。

ピーッ……
ピーッ……
ピー——————————

機械が、終わりを告げる。
キム・ゴヌは、注射器をトレイに戻し、何事もなかったように部屋を出た。
カーテンが、静かに閉まる。
白い包帯に覆われた体は、もう、動かない。
泣き虫の白者は、ようやく、すべてを終わらせた。
外では、都心の冬の風が、冷たく吹き抜けていく。
誰も、もう泣かない。