泣き虫の白者

深夜二時を回った頃。

倉庫の中は、冷え切ったコンクリートの温度だけが肌に染み込んでくる。
泣き虫の白者は、まだ床に転がったまま。
熱いおしるこの残骸が髪にこびりつき、乾いて固まり始めていた。
血と餡と埃が混じった、奇妙に甘い腐臭が漂う。

「……っ……く……」

微かな呻き。
白者は、折れた肋骨を庇うように体を捻り、ゆっくり、半ば強引に上体を起こそうとした。
その瞬間——

ガシッ。

突然、左腕を強く掴まれた。

「起きろ」

低い、抑揚のない声。
力は容赦なく、白者の巨体をまるで子供のように引き起こす。
白者の視界に、月明かりに浮かぶ男の姿が入った。
屈強な体躯。
白と黒が左右で分かれたアシンメトリーのショートヘア。
右目は漆黒、左目は純白——オッドアイが、暗闇の中で異様に光っている。
白肌は不健康なほど白く、まるで血の通っていない人形のようだ。
白黒保安官、张 飞(ザン・フェイ)。

「……誰……」

掠れた声で白者が問うも、张 飞は答えず、ただ無表情で白者の体を支えた。
いや、支えているというより、運ぶための取っ手のように扱っている。
そのまま、倉庫の外へ。
夜の港風が、傷口を容赦なく刺す。

安ホテルの一室。
ネオンが窓の隙間から赤く漏れ、壁紙の剥がれた天井を染めている。
ベッドに投げ出された白者は、まだ意識は朦朧としている。
张 飞はコートを脱ぎ、ネクタイを緩めながら、無言で白者の服を剥ぎ取っていった。
抵抗する力は、もう残っていない。

「……やめ……」

小さな呟きは、すぐに喘ぎと混じり、やがて嗚咽に変わった。
张 飞は何も言わない。
ただ、機械的で、正確で、そして容赦のない動きで、白者の体を貪った。
痛みと、熱と、屈辱と、訳のわからない感覚が、白者の白い瞳の中で渦を巻く。
どれだけの時間が過ぎたのか。
白者はもう、声を出すことすらできなくなっていた。
张 飞は、行為が終わると、黙って体を離した。
シャワーを浴び、服を整え、テーブルの上に数枚の千円札と小銭を置く。
チェックアウト代。
それだけ。
ドアが静かに閉まる音、足音が廊下を遠ざかり、消えた。

翌朝。
薄い朝日が、カーテンの隙間から差し込む。
白者は、ゆっくりと目を開けた。
体中が痛む。新しい痛みと、古い痛みが混じり合っている。
枕元に、置かれた金。
千円札三枚と、細かい小銭。
それだけ。
张 飞の姿は、どこにもない。
匂いすら残っていない。
白者は、震える手でその金を握りしめた。

「……あ……」

掠れた声が、誰もいない部屋に落ちる。
白い瞳が、じっと天井を見つめる。
そこには、剥がれかけた壁紙と、かすかに残るネオンの赤だけがあった。
まだ、終わっていない。
白者の指が、シーツを強く握りしめる。
今度は、誰かの首を絞めるように。