前のように玄関の前で私を待っていた晴は、真剣な表情で口を開いた。
「おはよ。……」
続く言葉を呑み込み、私の様子を見ている。
「おはよ。」
私は挨拶を返して、晴を避けるように距離をとる。
「未來、昨日はごめん。話がしたいんだ、一緒に行かないか?」
昔のケンカとは違う。謝って許すようなレベルを超えてしまった。
「晴。私は昨日、メモを見たの。一緒には行かない。これからずっと、それは変わらないと思って欲しい。」
私の言葉で表情は暗くなり、視線を一度落として顔を上げた。
「……未來。俺の自分勝手な行為が君を傷つけた。こめん……メモで、未來の反応を知りたかった……これだけは、知っていて欲しい。俺は、未來が好きなんだ。」
ほんの少し前なら、どれほど嬉しかっただろう。
晴の声は天地が逆転したように、心に響かない音に変わってしまった。
「晴の気持ちに応えることが出来ない。好きな人が出来たの。」
私は立ち尽くす晴を残して、学校に歩き始めた。
例え交換条件だったとしても、今まで晴と木口さんは付き合っていたことに変わりはない。
時間を共に過ごし、手をつないで……
私の反応が知りたかった?十分に見て気づいたはずよ、私たちの時間は何だったの?
私の事が『好き』だと言うけれど、信じることができない。
心は冷めて、過去の綺麗な思い出までも穢していくような感情を生み出していく。
私の初恋は、みっともない結末を迎えた。物語にも出来ない。
小さな音に足を止めて耳を澄ます。
学校の門が見える位置で、遠く離れているのに聴こえるバイオリンの音。
止めた足が一歩進み、次の歩を進めて繰り返す度に速度が上がる。
学校の門を通り、上を見上げる。
校舎の屋上に人影が見えた。
さっきまで沈んだ心は、打って変わって弾むように心音を加速させる。
会えるだろうか?

