オンラインゲーム『ラピスラズリ』


PCの時間を見ると、日を超えたところだった。
PC画面の奥、アバターから離れた場所に扉が出現し、声が響く。
「我が砦、我が城はエターナル。さぁ、挑戦を受けた勇者よ……無駄な死を晒せ。最期の出立を祝う者達の声を聴くが良い!」
扉が開く様子と同時、アバターの周囲の画像が変化して、音声が大きくなっていく。
それは、深夜でも気にならない音量で止まった。
安堵したのも束の間、私たちを取り囲む人波と罵りの文字。
聞こえる声は、あの言葉を含んでいた。
「英雄気取りかよ、チート!」
「チートは犯罪だろ!」
押し寄せて圧迫されるような画像と、罵声……
タクマは歩き始める。人垣をかきわけ、扉までの一本道の吊り橋に足を乗せた。
そして、私の方に振り返る。
私はタクマの近くへ移動し、橋の方向へと向かう矢印キーを迷いなく押した。
タクマは微笑み、私の手を引き寄せて走り出す。
罵声は遠退き、二人が橋の上を走る画像が伝える臨場感。
角度が四方に変化して、タクマは告げる。
「俺はチート。プログラムを不正に改造した。」
また悲しみの伝わる声。
この人は、何を考えているのだろうか。もっと知りたい。貪欲になる。
少ない情報で満ち足りず、今まで気にせず過ごしていたことにさえ怒りを感じた。

橋を渡り切り、開かれた扉を潜る。
その後、扉は閉まり下から消えて、中は扉のない円形の部屋に。
壁はないけれど、遠くの床が円形で区切れている。床の模様が揺れた。
橋の手前に終結した大勢の人だかりが映し出され、部屋中に響く罵声。
これほどの罵倒が、人の口から出るのかと思うと、身も凍えそうだ。
タクマは私を抱き寄せ、呟く。
小さな声で何か言っているのは分かるのに、耳を澄ますが聴き取れない。
そっとタクマは離れ、距離をとる。
咄嗟に、置いて行かれるのかと焦りが生じた。
私は必死で、適当なキーを押す。
違う、私は傍観者ではいたくない。『ヒロイン』にもなれない。
なって欲しいと言ったのは、タクマなのに!
悔しい、情けなさが襲う。
今まで私は何をしてきたのか……役に立てない。
必要と……して、欲しいの。お願い、タクマ……
私も、何かが出来るなら……力になれない?私は何の為に……