オンラインゲーム『ラピスラズリ』


私は恋を失った。
痛みはない。無感覚になったのか癒されたのか……多分、他の理由だと思う。
私の思考や行動を支配する別の人が現れた。
虜にし、心を奪い、私を導く。
私の涙が、闇に刻んで光の螺旋階段となった……音のある世界。
今は無音。
私は何に囚われたの?
記憶に残るのは、バイオリンの奏でる曲……愛の歌……


繰り返される日常。
そして、同じ時間……私の部屋のPCが時間通りに強制ログイン。
沈む心で目を向けると、いつもと異なる。
PC画面には、『挑戦状』と書かれた二つ折りの紙が浮かんでいた。
鳥肌なのか、身体を振るわせるほどの刺激。
私はキーを押すのではなくマウスで、挑戦状をクリックした。
紙が開くと同時の効果音。
紙から浮かぶように見えるのは記号のようで、外国語を似せたような全く読めない文字。
音声が響く。物語の敵が発するような、低音のしわがれた男性の声。

「連なる日を跨ぐ夜。城への扉を開く。難攻不落を誇る我が砦に、挑戦するが良い。」

薄気味悪い笑いが響く。
文字は0と1に変化して、流れるように画面へと分散した。
中央に残った白紙も、紅の炎が一瞬で喰らい尽くす。
そして闇と無音の一時……

画像が揺れるように模様が浮かび、形を成して雪だるまのタクマが出現。
今日は、男の子の姿ではないんだ。意味があるのだろうか?
今度は音声もなく、画面に会話文字が並ぶ。
バイオリンの音も無い。無音。

『君は、俺と一緒に居る事で、周りから罵声を浴びるかもしれない。それでも、ヒロインを演じ続けてくれますか?』

その文字を見た瞬間、心が凍結したように感じた。
心音も止まったのかと思うほど、一瞬は長くて重い。
この夢のような世界でも、私を拒絶する状況は生じるんだ。
タクマは、私に『ヒロイン』ではなく、『演じる』ことを要求する。
私を捕らえながら、弱々しいタクマの本質を垣間見たようだ。
ううん、最初から……だよね。
創めから。私の弱みを知りつつ、晴のメモとの交換条件にも悲しそうな声で……私もタクマも同じなんだ。
タクマは、何を求めている?私とは、目的も歩む道も異なるかもしれない。
それでも、共に進むことを選んだのは私。
タクマは私を探究の世界に誘って、冒険の旅の道連れに選んだ。
私は、何があっても演じ続けてみせる。
タクマは警告を与えて、心構えをさせてくれたのだから。それに応えるわ。
あなたの、タクマの『ヒロイン』になりたい。

現実に立ち向かうため、幻想の世界で闘って力を得る。
勇気と希望と、力と知識。
無駄なものは無いと信じて。試練にも罵声にも耐えてみせる。
私はキーボードを打ち、文字を入力した。
『quest』…………