家に帰り、再出発を望んだ私は、リハビリの日常を繰り返す。
燻った感情も治まって、新たな出発を始めることも可能だと信じている。
晴は、私とは違う道を木口さんと歩む。
私は前を進む彼とは違う道で、自分なりの前進を願う。
夜9時過ぎにテレビの前から離れ、自分の部屋へ向かう。
部屋の電気を付け、PCの電源を入れた。
PCは、遠隔操作でも受けているのか、勝手にあのサイトへログイン。
アバターは磔のまま。光の中、目を閉じた状態で動かない。
適当なキーを何度か押してみる。
アバターは目を開け、高音のバイオリンが曲を奏でた。
アバターを束縛していた黒い紐のようなものが崩れ、様々な音符記号が現れた。
それが曲に合わせて流れていく。
音のある光の中、解放されたアバターは自分の足で画面の中央に立った。
両手を伸ばし、視線を上部に向ける。
落下音が曲に重なり、物影を受け止めるアバター。
手には、あのヌイグルミ。晴のくれた雪だるまの姿と同じ物。
背筋に寒気がした。
カバンに入れたままだったヌイグルミを、PCの横、机の上に置く。
何の意味が……?
画面に視線を戻すと、雪だるまから闇が生じる。
滲むように光を侵食して、アバターを呑み込んだ。
バイオリンが、今までにない速度で曲を演奏し、高音と低音を繰り返す。
まるで、変化を強調するような激動。
アバターの涙が、闇に光を刻んで螺旋状の渦になる。
黒い様々な音符記号が、散らばった光を運んでアバターを包んだ。
光を帯びた音符記号が、髪に触れると、木口さんと同じ茶色から漆黒に変化する。
短い髪に音符記号が絡んで、柔らかさを失い、艶やかな長い黒髪。
アバターは目を閉じ、緩やかな回転を繰り返す。
低くて可愛い容姿は、女の子にしては高い背と切れ長の目に。
まるで自分が、そのままアバターになったような姿。手にはタンバリン。
『俺の、ヒロインになってくれないか?』
今回は、音声ではなく画面に現れた文字。
前回と同様、返事を求めて点滅するカーソル。
私は文字の入力もせずに、エンターキーを押した。
「未來、彼のメッセージを預かっている。君に会えた時、必ず渡すと誓うから……一時的で良い。俺のヒロインになって。」
同年代の男の子の声音。
高音のバイオリンが、聞いたことのある曲を演奏する。
愛の歌……
あなたは晴のメッセージを持っている事を私に告げ、必ず対面すると約束した。
私は、晴が渡そうとした物を手に入れたいから囚われる。
そんな拘束を、まるで私に請い願うような矛盾した要求。
あなたが求めたのは、一時的なヒロイン。
悲しみの伝わる声だった。

