下駄箱で靴を履きかえ、登校時間に入り混じる生徒の声。
階段を上り、逆光に目を細めた。
人影が見え、物陰が近づいて、自分の頭に当たった。
「痛っ!」
頭を手で押さえ、転がった物に視線を向けて固まる。
あの日、拾うこともしなかった雪だるまのヌイグルミ。
晴なの?
眩しいのを我慢して目を向けたが、人影は無かった。
「未來?」
聞き覚えのある晴の声は、階上ではなく、階下から。
その隣には、可愛い彼女が微笑んでいた。
高鳴る心音。
ヌイグルミを、カバンで隠しながら「おはよう。」
自分の表情なんか、分からない。
ただ、久々に顔を見て挨拶した。
その後は、逃げるように教室へと向かう。
雪だるまのヌイグルミを、私に返したのは誰なの?
あの日、私と晴の様子を見ていた人がいるんだ。
このヌイグルミを拾って、今まで持っていた。
何故、今日なの?
理解できない状況と、答えの出ない疑問が頭を巡る。
ヌイグルミをカバンに入れて、見つめるが答えは出ない。
ん?カバンに手を入れ、ヌイグルミのお腹部分を触る。
膨らんだ部分に、指が入った。隠された空間。
中には、何も入っていなかった。
もしかしたら、何かが入っていたかもしれない?
不安のような、恐怖に近い感情で心音が響く。
高鳴り、速度を速める音に、思考は真っ白だった。
友達に移動教室を促され、立ち上がって歩くが、どこか不安定。
「未來、ちょっとトイレ行くから、待ってね。」
階段で友達を待つ私に、人影が近づく。
「未來、見てくれた?」
視線を向けると、ぎこちない不安そうな笑みの晴。
何かを見た確認。
私の表情は固まった。
「晴くん!移動教室なの?」
階上から、私たちを見つけたのは晴の彼女。
晴は彼女に手を振って、私の前から移動する。
「見ていないのなら良いんだ。気にしないで。」
去り際に小さな声が聞こえた。
見ていない何か。
遠退く声が響き、視界が暗闇に染まる。
気づけば、保健室のベッドに寝ていた。
「目が覚めた?あまり、考え事を抱え込まない方が良いわね。高熱で倒れたのよ。家の人が迎えに来てくれるみたいだから、それまで寝ていなさい。」
また、心配させてしまったかな。
情けなさに、ため息。
天井を見つめ、ヌイグルミの事を思い出す。
あの日、あのヌイグルミにはラッピングが無かった。
多分、私が見ると思った何かが入っていたんだ。
ヌイグルミを返してくれた人は、それを持っているのだろうか?
それとも落とした時に、風で、どこかに飛んでしまったのかな?
気にしないでと言ったけど、晴の悲しそうな表情が記憶に残っている。
返却の遅いヌイグルミ……

