見たくない現実からの逃場に、自分の身を置きたくない。
髪の長さ、背の高さ、すべての選択項目で自分の外見とは正反対に設定した。
別人が目の前に、画面上で微笑む。空虚。
名前も同じ、自分の名前の未來(みらい)と反対の『カコ』で入力した。
世界イメージの画像を選択し、矢印キーでアバターを移動させる。
湖のある草原。
バイオリンの高音が、保健室で聴いたのとは違うメロディで響く。
湖の水際までアバターを移動させ、画面を見つめた。
選択した画像は、湖のある景色。
このまま進めば、どうなるのだろうか。
アバターは、湖の深みにまで進み続け、沈むのだろうか。
そのまま浮かぶこともなく、どうなるのだろう?
矢印を湖の方へと押し続けた。
アバターは恐怖もなく、湖に入っていく。
パソコンからは水音が響いて、バイオリンの演奏が止まった。
そうだろう、そんな行動をするなんて、予測していなかったかもしれない。
プログラムにエラーが発生したのだろうか。
それでも、アバターが水に入った音はリアルで、水の深みを表す画像も鮮明に映し出す。
味わう感覚。
アバターは慌てる訳でもなく、目を閉じて、深みに落ちていく。
深さと比例して、光の無くなっていく暗闇を足元に見ていた。
矢印キーを上に押してみた。
アバターは目を開け、視線を上に向けた。
視点の角度が変化して、湖上にある光が揺れるのが分かる。
口元から空気の泡が漏れ、小さな気泡の音が聴こえた。
苦しみのない闇。
パソコンに触れないで、アバターを見続けていると、一定の時間での設定なのか、アバターは身を丸めた。
そして、バイオリンの悲しいような、切ないメロディが静かに流れる。
水の音が不定期に重なって、アバターは深い闇に落ちていく。
私の心と同じ。
画像と音が引き込んだ感覚を味わう別世界。
私は逃げ場を見つけた……

