ある日、私はお客様と総務部長を、
地下の駐車場まで案内していた。
部長とお客様は、
そのまま社用車に乗り込み、静かに出ていく。
いつもの業務。
いつもの光景。
そのときだった。
地下フロアに、
ひときわ大きな車が入ってくる。
黒くて、艶のある高級車。
――え?
助手席には、秘書課の女の子。
その後ろには、秘書課の部長の姿。
重役が来たのだと気づいて、
私は反射的に一歩下がり、隅に立った。
邪魔にならないように、視線を落とす。
車のドアが開く。
降りてきたのは、
三十代半ばくらいの、若い男性だった。
思わず、頭を下げる。
そのまま通り過ぎるのを待つ
――はずだった。
……え?
一瞬、視線が合った気がした。
こちらを見て、
その人は、ほんのわずかに――笑った。
――西条、さん?
似ている、メガネは掛けていない、でも。
そう思おうとしても、
心臓の鼓動がうるさくて、何も考えられない。
胸の奥が、どくん、と大きく跳ねた。
慌ててフロアを出て、デスクへ戻る。
指先が震えるのを抑えながら、
パソコンを立ち上げた。
検索窓に、打ち込む。
西条
一瞬の間。
画面に表示された文字を見て、
息が止まった。
――代表取締役
――西条 蓮
「……え!」
思わず、声が漏れてしまう。
総務課のフロアに、間の抜けた声が響いた。
何人かが振り返る。
私は慌てて、
何事もなかったふりをして、頭を下げた。
……社長?
西条さんが?
清掃員で、
猫の話をして、
笑って、
キスをした――あの人が?
体の震えが、止まらなかった。
ひっくり返るほど、
驚くというのは、
きっと、
こういうことを言うのだと思った。
地下の駐車場まで案内していた。
部長とお客様は、
そのまま社用車に乗り込み、静かに出ていく。
いつもの業務。
いつもの光景。
そのときだった。
地下フロアに、
ひときわ大きな車が入ってくる。
黒くて、艶のある高級車。
――え?
助手席には、秘書課の女の子。
その後ろには、秘書課の部長の姿。
重役が来たのだと気づいて、
私は反射的に一歩下がり、隅に立った。
邪魔にならないように、視線を落とす。
車のドアが開く。
降りてきたのは、
三十代半ばくらいの、若い男性だった。
思わず、頭を下げる。
そのまま通り過ぎるのを待つ
――はずだった。
……え?
一瞬、視線が合った気がした。
こちらを見て、
その人は、ほんのわずかに――笑った。
――西条、さん?
似ている、メガネは掛けていない、でも。
そう思おうとしても、
心臓の鼓動がうるさくて、何も考えられない。
胸の奥が、どくん、と大きく跳ねた。
慌ててフロアを出て、デスクへ戻る。
指先が震えるのを抑えながら、
パソコンを立ち上げた。
検索窓に、打ち込む。
西条
一瞬の間。
画面に表示された文字を見て、
息が止まった。
――代表取締役
――西条 蓮
「……え!」
思わず、声が漏れてしまう。
総務課のフロアに、間の抜けた声が響いた。
何人かが振り返る。
私は慌てて、
何事もなかったふりをして、頭を下げた。
……社長?
西条さんが?
清掃員で、
猫の話をして、
笑って、
キスをした――あの人が?
体の震えが、止まらなかった。
ひっくり返るほど、
驚くというのは、
きっと、
こういうことを言うのだと思った。
