「金はいくらでも出そう。この〇〇に言えば用意する」
そう言うと、従者らしき男は丁寧な所作でお辞儀をする。建前上にこやかな笑顔をしているが目が笑っていなかった。
「話は終わりだ。俺は先に戻る」
そう言って男が立ち上がると、シェリーと会話することなく横を通り過ぎた。
残されたシェリーにはなんの話をしていたのかさっぱり分からなかったが、義母が「これでお荷物が減るわ〜」なんて嬉しそうに言っているのを見て、自分がもうこの家には戻って来れないと感じた。
先に戻ると言っていた男の服の胸元には、この他国の紋章が刻まれていた。おそらく国で招待した王族だろう。
(この国から出ていかなくちゃいけないの……?)
シェリーはただ俯き、ぐっと拳を握りしめる。
両親が生み育ててくれたこの国を去るのは、やっぱり寂しかった。
「さて、行きましょうか」
残っていた男は義父と契約書でのやり取りを終え、シェリーを外へ出るよう促す。
最低限の荷物だけ持たされ、シェリーは玄関に向かう。
外に出る際に振り返ってみたが、もうあの家族はシェリーのことなんて見ていなかった。
