四の国で分かれたこの大陸で、シェリーが生まれ育ったのは暖かく一番平和とされる南国ハルシオン。
自然や天候に恵まれ農業が盛んだったハルシオンでは、人口は少ないものの争いが少なく他国との交流も進んで行っていた。
シェリーも農家の一人娘だったが、十歳のときに不慮の事故で両親を亡くしてからは、十六歳になった昨日まで遠い親戚一家と暮らしていた。
しかしその生活は決して楽しいものではなかった。
もともと裕福ではないマーベル家は、シェリーが家族に加わったことと、一家全員の浪費癖により財力が底をつきそうになっていた。
「住まわしてやってるんだから、仕事するのが当たり前でしょう?」
義理の両親とその娘はシェリーを働きに出し、その稼ぎで生計を立てるも自分たちは遊びに明け暮れる日々。
お世話になっている身で強く言い出せず、シェリーも仕方がないとその生活を受け入れた。
国内では珍しい白銀の長い髪に赤い瞳をもつシェリーの容姿は、町一番と評され、城下町の飲食店での客引きにもってこいだった。
どんなに稼いでも自分の取り分はゼロだが、住まわせてもらえるだけありがたかった。
いつもと変わらずの日々を過ごしていた、二日前。
仕事を終え帰宅すると、家の前には武装した軍人と馬車が止まっていた。何事かと思い、急いで靴を脱いで家へ上がり込む。
リビングには、嬉しそうにはしゃぐ三人と見知らぬ男二人がいた。
従者と思われる男と椅子に腰掛けゆっくりとシェリーへと振り向く男。
何も映さないほどの漆黒の瞳に捕まり、シェリーは金縛りにあったかのようにその場で動けなくなった。
「君が、シェリー・マーベルか?」
体の心にまで届くような低い声。威圧感のある眼差し。足を組んでいるその姿は、一目で只者では無いとわかる。
それが、北の国の国王、ノア・ルクバートとの出会いだった。
