触れられない手

昔の朝陽は、よく私を呼んだ。

「ゆず」

その二文字が、好きだった。
公園で。学校帰りで。喧嘩したあとでさえ。

「ほら、ゆず。帰るぞ」

手を引かれるのが、当たり前だった。

私たちの家族は仲がよかった――表向きは。

雨の日。大人たちの空気が壊れた日。

「お母さん!」

道路の向こうで叫ぶ声。
走る背中。次の瞬間、大きな音と悲鳴。

赤い傘が地面に落ちた。
動かなくなった人。

私は、その全部を見てしまった。