触れられない手

「少し、入院が必要ですね」

医師の言葉に、私はただ頷いた。

それから日常が少しずつ崩れた。

学校と病院の往復。
家に帰ると、静かすぎて息が詰まる。
廊下の写真立て。祖母と写る笑った私。

この時間も、終わるんだ――そう思うと胸の奥が冷たくなる。



放課後、病院からの帰り道。

校門を出ると、雨が降り出していた。
心臓が嫌な音を立てる。

そのとき、少し離れた場所に人影が見えた。
傘もささず、ただ立っている。
朝陽だった。

目が合う。ほんの一瞬。
朝陽は、何かを言いかけて口を開いたけれど、すぐに閉じた。
その表情には昔の影がちらついた。
そして背を向ける。

私は追えなかった。
追ったら、今度こそ戻れなくなりそうで。