触れられない手

雨の日は、世界が滲む。
アスファルトも、人の声も、過去も。

高校の校門の前で、私は傘を強く握りしめていた。

「……大丈夫」

誰にも聞こえないように、そう言ってみる。
でも、心臓は言うことを聞かない。雨の日は、だめだ。わかっているのに。



「今日から転校生が来ます」

教室に、担任の声が響いた。

私は一番後ろの席で、窓の外を見つめていた。
どうせ、誰とも深く関わらない。そう決めて、生きてきた。
「入って」

扉が開く音。

その瞬間、胸の奥が嫌な音を立てて軋んだ。

黒い髪。伏せがちな目。少し大人びた横顔。

――知っている。

「園田朝陽です」

名前を聞いた瞬間、世界が止まった。

「よろしくお願いします」