〜真昼の月と見慣れない制服〜

 緑ヶ丘総合高校、校門。俺は今日帰宅しようとしていると
「おい! 律!」
友達の田中翔太(たなかしょうた)に呼び止められた。
「どした?」
俺が聞き返すと
「レポート出たんだろ? 教えてくれよ!」
翔太は、俺と同じ昼の部に通っていてレポートなんかの課題はギリギリまでやらない。
「また、忘れたのか? 何の科目?」
「えーっと、生物基礎のレポート……」
「人間の目についてだよ……」
「ありがと!」
翔太は去っていった。
 ひだまり荘、桜井家。
「ただいまー」
俺は返事をした。
「おかえり!」
雫が出迎えてくれる。俺は靴を脱いで、ユニットバスの流しで手を洗う。雫が来るまでは台所で洗っていたな。そういえば。
「今日の夕飯は、私が作ってあげる!」
雫は上機嫌だった。
「そうしてもらおうかな? 何作るの?」
「カレーライス作ってあげるね!」
雫はおタマを持って、俺の冷蔵庫を漁っている。
「野菜ってどこにあるの?」
「……1番下の段」
俺は瞬時にスマホへ視線を移した。雫は足を曲げずに冷蔵庫の1番下の段を開けて、カレーの材料である人参、玉ねぎ、じゃがいもを取ると思ったから。俺は冷蔵庫が閉まる音がするまで、視界にスマホのゲーム画面しか映らないよう調整した。
 数分後。冷蔵庫の閉まる音がして、包丁で玉ねぎを切る音が聞こえる。
「な、涙が出る……」
雫は涙を流しながら、玉ねぎを切っていく。Yシャツの袖で目を擦りながら、切っていた。
「ちょっと待ってて……」
俺は寝室に行き、勉強机からサングラスを取り出す。そして、台所にいる雫に渡す。
「涙拭き取りながらやったら、いつか手を切るぞ」
俺は、ダイニングテーブルにサングラスケースを置く。雫は玉ねぎを切り続ける。
 十数分後。次はじゃがいもの皮を包丁で剥こうとしていた。
「雫、調理器具の中にジャガイモの皮剥くピーラーがあるから……それで皮剥いて……包丁でやったら手を怪我するから」
俺は、雫に伝えた。雫は包丁を置いて皮を剥くピーラーで剥いていった。
 数十分後。その後も、俺がいろいろと注意を入れながら、カレーライスが完成した。ライスはレンチンのご飯にした。ルーもレトルト。野菜は茹でて柔らかくした。
「先に食べて!」
雫は満面の笑みを見せる。
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
「いただきます!」
俺はスプーンを持って、ひとくち口に運ぶ。
「美味い!」
俺はあの某アニメの人物の如く叫んだ。
「口に合って良かった!」
雫はYシャツの袖をめくってカレーを食べていた。俺のYシャツを大切に使ってくれている。
 数日後、週末。俺はスマホでゲームをしていて、雫はダイニングで学校の課題をしていた。すると
ーーピンポーン!
と。インターホンが鳴る。ひだまり荘には全ての部屋にインターホンが付いている。
「誰だ?」
俺は、インターホンと連動しているモニターを確認する。すると
「翔太!」
俺の友達だ。今このまま入って来られてはまずい。雫がいるから。雫の今の服装は俺のYシャツ1枚。絶対に嫌らしいことをやっているって勘違いされる。どうやって追い返そうか。
「雫、一旦タブレットを俺の部屋に置いてユニットバスの浴槽に身を潜めて……」
俺は雫に言った。雫は何も言わず俺の命令通りにユニットバスに隠れた。俺はドアを開ける。
「どうしたんだ? 翔太?」
俺はかなり具合悪そうな演技しながら、翔太に話しかけた。
「いや、レポートを一緒にやって欲しくて……」
翔太の頭の中身はどうなっているのだろうか。
「すまん……今、ちょっと体調悪くて……」
「昨日までピンピンしてたじゃん! 自分の部屋に帰ってどこにも行かない律が、すぐ風邪引かないだろ?」
翔太の鋭い観察眼。もうこう言われたら、部屋に入れてしまわないといけない。
「一応、マスクはして入ってくれ……」
俺は翔太を部屋に招き入れた。俺はユニットバスに行って、
「雫、もうちょっとだけ待ってて……」
俺はユニットバスの浴槽にいる雫に伝えた。
 ダイニング。
「律はどんなレポート書いたのか、見せてよ!」
「どうせ、丸写しするくせに……」
翔太はギリギリまでレポートをやらない。そして、間に合わないから俺のレポートを丸写しして評価を得ている。すぐバレるのに。俺はガラス製のコップを2つ出して氷と麦茶を入れて翔太に渡す。
 数分後。突然、翔太が立ち上がる。
「すまん、トイレ貸してくれ……」
と言った。今ユニットバスに行かれてはまずい。雫がいるから。
「待って! 翔太……今トイレ壊れて使えないんだ……済まないが、近くのコンビニのトイレを借りてくれ!」
「そうか……じゃあ、明後日学校に来て写させてくれ……」
翔太はレポート用紙を持って俺の部屋を去った。
 ユニットバス。
「雫、もう大丈夫……」
俺は雫に話しかける。
「もうちょっとって言ったじゃん……足が痺れて動けない……」
「両手出して……」
俺は雫の両手を掴んで身を起こさせる。
 数日後、午後5時半。俺の部屋の前に荷物が届いていた。
「やっとか……」
俺は荷物を持って、ドアを開ける。すると、チェーンが()けられていた。
「し、雫? チェーンを外してくれないか?」
「え? あ、ごめん! 忘れていた……」
雫はチェーンを外して、俺は部屋に入った。
「宅配来るなら、事前に教えてくれれば……」
「だから、俺の名前が書かれた教科書渡したんじゃん……」
俺は雫から、その時の状況を教えてもらった。
 午後3時頃。
ーーピンポーン!
インターホンが鳴った。雫はモニターを見ると青い猫の刺繍の入った唾液止めの帽子を被ったお兄さんが映っていた。
「青猫ニホンの宅急便です! 桜井律さんはご在宅ですか?」
宅急便のお兄さんだった。雫は俺が登校前に渡した教科書を見て、玄関のチェーンを掛けて、ドアを開けた。宅配便のお兄さんはびっくりしたのか、
「桜井律さんですか?」
と聞き返す。雫は小さくなるべく低い声で
「はい、そうです……」
と答えた。
「こちら、ご実家からの宅配便です……こちらにサインをお願いします……」
宅配便のお兄さんは、サイン用紙とボールぺンをドアの隙間から入れる。雫はサイン用紙とボールペンを受け取ると、俺の教科書に書かれた名前を見ながら、サイン用紙に
『桜井律』
と。書き込んだ。
「はい……」
雫はサイン用紙とボールペンを返した。
「お荷物、どうしますか?」
宅配便のお兄さんが聞く。
「置き配でお願いします……」
雫はそう伝えた。
 現在。雫はすごく緊張したらしい。でも、ちゃんとできて良かった。
「律さんの実家からって言ってたけど、何を届けてもらったの?」
「雫が必要って言ってたもの……」
俺はダンボール箱を開けて、届いたものを床に置く。
「これって……」
「そう、コピー機……これで雫はノートに書き写さなくていいよ!」
「あ、ありがとう……」
雫は礼をして、萌え袖のYシャツで拍手でもしている仕草をした。