〜真昼の月と見慣れない制服〜

 夜、桜井家。夕食を食べ終えると本当に律さんはソファに座って寝てしまった。私は言われた通り律さんの部屋のベッドで寝ることにした。
「暗いし、電気点けよう……」
私は部屋の明かりをつける。部屋の中にはセミシングルのベッドと勉強机と分厚いカーテンしかない。独り暮らしには充分なのだろう。私はベッドに近づいて、寝具を確認する。まずは枕を手に取ってみる。
「裏表で触り心地が違う……」
枕の表面はフワフワしているのに、裏面はジャリジャリしている枕だった。これはハイブリッド型の枕だ。次はベッドに乗って反発を確認する。低反発素材だ。敷き布団は冷たくて今の夏に適している。掛け布団も薄いタオルみたいなものだった。
「ちゃんと季節に対応している……」
私は部屋の天井を見ると、エアコンも付いていた。
「点けようかな……」
私はリモコンを取ろうとしたら、手が止まった。私は就寝時のことを思い出す。私は就寝時は肌をあらわにした姿で寝る。長年裸族だったし。私は悩んだ末、エアコンは点けなかった。点けなくても寝られると思う。私は律さんからもらったYシャツを脱いで、壁にかけているハンガーにかけて、薄いタオルみたいな掛け布団を被って眠りについた。
 翌朝、朝6時頃。私は目を覚ます。私は目覚ましをかけなくても起きられるよう練習していたから、いつもこの時間に起きられた。私は、カーテンを開ける。太陽が昇っていて、今日も天気のいい1日になりそうだ。ベランダには出ていないけど。
「律さんは起きてるかな?」
私はダイニングに行く。
 ダイニング。私がソファに目をやると、律さんは眠っていた。スマホは朝9時に設定されている。昼の部だから遅く起きても良いんだ。すると、律さんは寝返りを打ってソファから転げ落ちる。そして、目を覚ました。
「イテッ……」
律さんはおでこに手を当てる。
「だ、大丈夫ですか?」
私が声を掛ける。
「あぁ……だいじょう……」
律さんの言葉が途切れた。私は自分の体を見る。
《Yシャツを着るの忘れていた!?》
私は律さんの部屋に駆け込み、Yシャツを着た。ボタンも全部閉めた。
 朝食時。律さんはソーセージと卵焼きを作っていた。
「おはよう……雫」
律さんは無愛想な挨拶をした。
「おはようございます……律さん」 
私は恥ずかしかった。律さんは私が夜、肌をあらわにした姿で寝ているなんて、思わなかったのだろう。律さんは私の分の朝食も作っていた。そして冷蔵庫から牛乳とカフェオレのパック、ケチャップを取り出してダイニングテーブルに並べる。そして手を合わせる。
「いただきます……」
律さんは私の顔を見ず、フォークを使ってソーセージを食べている。
「あの……律さん?」
「ん? なに?」
「朝は……ごめんなさい」
「え? あぁ……気にしてないよ……」
律さんは私が肌をあらわにした姿でダイニングに行ったことを気にしていなかった。
「いい目覚ましになったし……」
律さんが何か呟いたが、聞き返しても誤魔化されると思ったから無視した。
 朝食終了。律さんが食器を洗っている。私はタブレットを手に取って授業の準備をした。
「俺は部屋に居ようか? 邪魔になると思うし……」
食器を洗った律さんが言う。
「いや、私は別に……」
「部屋に(こも)っとく……遠慮はいい」
律さんは食器を洗い終わると、寝室に入った。私は律さんに不安を抱きながらも、オンライン授業を受けた。
 朝11時頃。私が3時限目のオンライン授業を受けていると
「学校行かねぇと……」
律さんが寝室から出て、通学カバンを肩から下げて
「じゃあ、雫行ってきます……」
「い、行ってらっしゃい……」
律さんは部屋を出た。すると
ーーグウゥ……
お腹が鳴った。
「昼食どうしよう……」
私は律さんが居ない部屋で、どうやって食事を取ろうか悩む。保護されている身だけど、流石に冷蔵庫の中を物色するわけにはいかなかった。両親に追い出される前は、母親が部屋の前にご飯を置いていってもらってたから心配してなかったけど。
「考えるだけでも、お腹が減るなぁ……」
私はダイニング椅子から立ち、台所にある大きい冷蔵庫を開ける。中には付箋が貼られていた。タッパーにポテトサラダが入っていて、ピンク色の付箋紙に
『雫』
と。書いてあった。律さんは深夜に起きて作ったのだろうか。
「……ここまでしなくても、自分で作れるのに……」
私はポテトサラダを電子レンジで温めた。冷たいままじゃ、食べられないことはないけど、何か足りないと思うし。
「お米も欲しいな……」
台所の流し台下を見ると電子レンジで温めるご飯と、お湯を入れて作れる味噌汁があった。
「普段からあまり料理しないんだ……」
台所には、炊飯器が見当たらないから、ご飯はいつもレンチンなんだ。私はポテトサラダが温め終わったら、今度はご飯を温めた。お湯はどうやって沸かすのか見渡すと、流し台の隣に電子ケトルが置いてあった。私は冷蔵庫からミネラルウォーターを出して電子ケトルに入れてスイッチを入れた。
 数分後。昼食が完成した。ご飯はレンジで温めたもの。おかずは律さんが作り置きしてくれたポテトサラダ。味噌汁はお湯を入れるだけで出来る即席。どれも美味しかった。具体的に何が美味しいか詳しくは言えないけど、美味しかった。
 17時半。
「ただいまぁ……」
律さんが帰ってきた。
「お帰りなさい……」
私は出迎える。
「雫……昼食はちゃんと取った?」
律さんが聞く。
「うん……ポテトサラダ美味しかったよ!」
「それは良かった……」
律さんは靴を脱いで、ユニットバスの流しで手を洗う。手を洗い終えると、私とダイニングに行って、ガラス製のコップに氷数個と麦茶を入れて、私の向かいに座る。
「律さんは、昼食は食べたの?」
「俺の学校は、給食があるから」
律さんの通う緑ヶ丘総合高校は給食が提供されるみたい。
「律さんは昼の部だけど、朝の部と夜の部もあるの?」
「そうだよ……弁当買う時間とかない人もいるから給食が提供される」
律さんは給食のある理由を教えてくれた。真偽は不明だけど。
「でも、昼食作り置きしなくてもいいよ……私も少しなら料理できるし……」
「そうかもしれないけど、勝手に食材使われたくないんだ……」
律さんは昼食の作り置きしてくれた理由も教えてくれた。そんな他愛ない会話をしながら、律さんとの同居生活は続いた。