あんしん結婚式場。俺と雫は、今日結婚式場の下見をしに来た。まだ会場のお金とは払っていないけど、下見ならタダだから。
「広い……綺麗……」
雫が呟く。結婚の誓いを立てる場所は、大理石で作られた石像や6人が座れそうな長椅子があった。こんな場所で雫と結婚できるのは、夢なんじゃないかと思えてしまう。
「どうでしょうか?」
ウェディングプランナーの梯さんが聞いてくる。
「検討してみます……ウェディングドレスの試着とか出来ますか?」
俺は梯さんに聞いてみた。雫のウェディングドレス姿を見てみたかったから。
「では、こちらへどうぞ……」
梯さんは衣裳室へ案内してくれた。
衣裳室。中には、ウェディングドレス系統の服が8割。メンズは2割の比率だった。
「どれを試着しますか?」
梯さんが雫に聞く。今の雫は、俺の両親に会った時と同様、黒のフード付き前開きパーカーを着ている。雫は数多くの中から、1番オーソドックスな白いウェディングドレスを指差し
「これにしてみます……」
と。梯さんに、答える。
「分かりました……旦那様、少しの間ご退出願いませんか?」
梯さんが、俺に言った。
「分かりました……」
俺は衣裳室を出て行った。衣裳室内が試着室なのだろう。梯さんは、女性だから雫が恥ずかしがる必要もない。俺は衣裳室のドア横の壁にもたれながら、2人のやり取りを聞いていた。いや、聞いてしまったが正しいかもしれない。聞こうと思っていたわけではないが、聞こえるぐらいの声量だったから。
「奥様? 下着は?」
「私……下着は付けられないので……」
「そ……そうですか……」
「このままの試着で良いですか?」
「か、かしこまりました……」
と。梯さんが雫にウェディングドレスを着せる際の会話が聞こえた。雫は心身症だったから、服や下着など着たら腹痛や湿疹が出るほど深刻だった。俺の着た服なら、症状は出ないけど。俺は男だから女性物の下着を買って身につけることは出来ない。かと言って、雫に男物の下着を履かせるつもりもない。どうしても下着を着させることが不可能に近い。だから、雫は常時ブラなしパンツなしの状態だ。この問題は俺と雫だけじゃ解決ができない。カウンセリングで少しは和らいでほしいけど。まずは服を普通に着られるまでだ。
体感数十分後。衣裳室のドアが開いた。
「旦那様? 奥様のウェディングドレスを試着し終えました……」
梯さんが俺に言った。俺は雫を見る。雫のウェディングドレス姿は綺麗や美しいだけじゃ足りないぐらいの言語化しがたい姿だった。すると、雫がしゃがみ込んでしまう。手でお腹を抑えている。
「奥様! どうなさいましたか?」
梯さんが近寄る。俺も近寄る。
「雫? どうした?」
俺はこのとき、気が動転していた。すると、雫の頬あたりに赤いポツポツが出始めた。
「梯さん! 急いで雫のウェディングドレスを脱がしてください!」
「わ、分かりました!」
俺は一応、また衣裳室を出た。ウェディングドレスの試着に立ち会っていない俺がウェディングドレスの脱がし方を分かるわけがないから。
数十分後。
「旦那様……奥様を元の服装に着替えさせました……」
梯さんが俺に言った。衣裳室には、正座でビクビクしている黒のフード付き前開きパーカー姿の雫がいた。
「本日は、お引き取り願いませんか?」
「分かりました……」
俺はこれ以上、迷惑かけたくなかったので雫の手を取り帰ることにした。
ひだまり荘、桜井家。俺と雫はダイニングテーブルに腰を下ろし、考え込む。
「ウェディングドレスで、心身症の症状出てしまったな……どうしようか?」
俺は頭を抱える。いっそ俺の服でも良いけど、どうせなら白いウェディングドレスを着せたかった。でもさっきのような症状が出てしまったら式は中止しないといけない。俺は躊躇いながらも提案してみた。
「何も着ないで、式行うか?」
「へ?」
雫が首を傾げる。小声で聞こえなかったのだろう。
「式場は俺の部屋にして、参列者は少ないから画面越しでの参加にするんだ……神父は最近流行りのAI音声とか使ってさ……雫は、何も着ないで式を執り行ってみるのはどうかな?」
俺はより詳細に説明した。
「服着ないで、参加はしたくない……恥ずかしいよ……」
却下された。俺は再び頭を抱える。他に雫の心身症が出ないやり方で式を執り行える方法はないだろうか。すると、雫が口を開く。
「Yシャツ素材で、ウェディングドレスとか作れないかな?」
「え?」
俺は疑問の声を漏らす。
「私が心身症を患ってから、最初に症状が出なかったのは……律さんの、ううん……律のYシャツだったから……律の着古したYシャツを何着かオーダーメイドのウェディングドレス専門店に持って行って、作ってもらうのはどうかな?」
雫が提案してきた。俺はクローゼットを開いて中学、高校とYシャツの半袖、長袖関係なく取り出し、雫が児童養護施設に持って行ったYシャツを持って
「ちょっともう一回、式場行ってくる! 留守番よろしく!」
俺は雫に留守番を頼んで、式場に向かった。
あんしん結婚式場。俺は梯さんを見つけて
「ウェディングドレス専門店を教えてくれませんか? この素材でウェディングドレスを作りたいんです!」
と言った。梯さんは首を傾げる。俺は一旦落ち着いて、
「実は、妻の雫は……少し、デリケートな事情がありまして……普通の服を着ることが、まだ難しいんです……俺が着ていたYシャツが、彼女にとって一番安心できる服なんです……だから、どうしてもその生地でドレスを作ってあげたくて……無理なお願いだとは分かっています……でも、どうしても、俺たちだけの結婚式にしたいんです」
と。梯さんに伝えた。すると梯さんは紙を取り出し、ペンで何かを書いて俺に渡した。
「こちらが、当式場で扱っているウェディングドレスの専門店となります……こちらの新造さんにお願いすれば作ってくれるかと」
と。教えてくれた。俺は梯さんに会釈して教えてもらったウェディングドレス専門店に向かった。
ウエディングドレスおーだーめいど。俺は大量のYシャツを持って入店した。すると、ちょうど新造と名札を着けた店主が店番をしていた。
「新造さんですか?」
俺は一応、聞いてみた。
「そうですが?」
新造さんは答えた。
「実は、この素材でウェディングドレスを作ってもらえないかと思いまして……」
「これは……Yシャツじゃないか!? 無理だ!」
「なんで、これで作って欲しいのか話を聞いてくれたら、納得できると思います」
俺は話し始めた。
「俺たちにとって、このYシャツはただの服じゃないんです……妻は、俺と出会うまでずっと、心に傷を抱えていて……このYシャツを初めて着てくれたとき、俺たちは一歩前に進めた気がしたんです! だから、このドレスは、俺たちの愛がどれだけ困難を乗り越えてきたかの証明なんです! どうか、そんな俺たちの愛を形にする手伝いをしていただけませんか?」
と、話を聞いた新造さんは
「分かった……君と妻さんの大切な衣服の生地で作った最高のウェディングドレスをデザインしよう!」
制作を承諾してくれた。俺は雫と初めて出会った日を思い出す。暑い夏の日。まだ真昼なのに月が見えていた日だった。
「広い……綺麗……」
雫が呟く。結婚の誓いを立てる場所は、大理石で作られた石像や6人が座れそうな長椅子があった。こんな場所で雫と結婚できるのは、夢なんじゃないかと思えてしまう。
「どうでしょうか?」
ウェディングプランナーの梯さんが聞いてくる。
「検討してみます……ウェディングドレスの試着とか出来ますか?」
俺は梯さんに聞いてみた。雫のウェディングドレス姿を見てみたかったから。
「では、こちらへどうぞ……」
梯さんは衣裳室へ案内してくれた。
衣裳室。中には、ウェディングドレス系統の服が8割。メンズは2割の比率だった。
「どれを試着しますか?」
梯さんが雫に聞く。今の雫は、俺の両親に会った時と同様、黒のフード付き前開きパーカーを着ている。雫は数多くの中から、1番オーソドックスな白いウェディングドレスを指差し
「これにしてみます……」
と。梯さんに、答える。
「分かりました……旦那様、少しの間ご退出願いませんか?」
梯さんが、俺に言った。
「分かりました……」
俺は衣裳室を出て行った。衣裳室内が試着室なのだろう。梯さんは、女性だから雫が恥ずかしがる必要もない。俺は衣裳室のドア横の壁にもたれながら、2人のやり取りを聞いていた。いや、聞いてしまったが正しいかもしれない。聞こうと思っていたわけではないが、聞こえるぐらいの声量だったから。
「奥様? 下着は?」
「私……下着は付けられないので……」
「そ……そうですか……」
「このままの試着で良いですか?」
「か、かしこまりました……」
と。梯さんが雫にウェディングドレスを着せる際の会話が聞こえた。雫は心身症だったから、服や下着など着たら腹痛や湿疹が出るほど深刻だった。俺の着た服なら、症状は出ないけど。俺は男だから女性物の下着を買って身につけることは出来ない。かと言って、雫に男物の下着を履かせるつもりもない。どうしても下着を着させることが不可能に近い。だから、雫は常時ブラなしパンツなしの状態だ。この問題は俺と雫だけじゃ解決ができない。カウンセリングで少しは和らいでほしいけど。まずは服を普通に着られるまでだ。
体感数十分後。衣裳室のドアが開いた。
「旦那様? 奥様のウェディングドレスを試着し終えました……」
梯さんが俺に言った。俺は雫を見る。雫のウェディングドレス姿は綺麗や美しいだけじゃ足りないぐらいの言語化しがたい姿だった。すると、雫がしゃがみ込んでしまう。手でお腹を抑えている。
「奥様! どうなさいましたか?」
梯さんが近寄る。俺も近寄る。
「雫? どうした?」
俺はこのとき、気が動転していた。すると、雫の頬あたりに赤いポツポツが出始めた。
「梯さん! 急いで雫のウェディングドレスを脱がしてください!」
「わ、分かりました!」
俺は一応、また衣裳室を出た。ウェディングドレスの試着に立ち会っていない俺がウェディングドレスの脱がし方を分かるわけがないから。
数十分後。
「旦那様……奥様を元の服装に着替えさせました……」
梯さんが俺に言った。衣裳室には、正座でビクビクしている黒のフード付き前開きパーカー姿の雫がいた。
「本日は、お引き取り願いませんか?」
「分かりました……」
俺はこれ以上、迷惑かけたくなかったので雫の手を取り帰ることにした。
ひだまり荘、桜井家。俺と雫はダイニングテーブルに腰を下ろし、考え込む。
「ウェディングドレスで、心身症の症状出てしまったな……どうしようか?」
俺は頭を抱える。いっそ俺の服でも良いけど、どうせなら白いウェディングドレスを着せたかった。でもさっきのような症状が出てしまったら式は中止しないといけない。俺は躊躇いながらも提案してみた。
「何も着ないで、式行うか?」
「へ?」
雫が首を傾げる。小声で聞こえなかったのだろう。
「式場は俺の部屋にして、参列者は少ないから画面越しでの参加にするんだ……神父は最近流行りのAI音声とか使ってさ……雫は、何も着ないで式を執り行ってみるのはどうかな?」
俺はより詳細に説明した。
「服着ないで、参加はしたくない……恥ずかしいよ……」
却下された。俺は再び頭を抱える。他に雫の心身症が出ないやり方で式を執り行える方法はないだろうか。すると、雫が口を開く。
「Yシャツ素材で、ウェディングドレスとか作れないかな?」
「え?」
俺は疑問の声を漏らす。
「私が心身症を患ってから、最初に症状が出なかったのは……律さんの、ううん……律のYシャツだったから……律の着古したYシャツを何着かオーダーメイドのウェディングドレス専門店に持って行って、作ってもらうのはどうかな?」
雫が提案してきた。俺はクローゼットを開いて中学、高校とYシャツの半袖、長袖関係なく取り出し、雫が児童養護施設に持って行ったYシャツを持って
「ちょっともう一回、式場行ってくる! 留守番よろしく!」
俺は雫に留守番を頼んで、式場に向かった。
あんしん結婚式場。俺は梯さんを見つけて
「ウェディングドレス専門店を教えてくれませんか? この素材でウェディングドレスを作りたいんです!」
と言った。梯さんは首を傾げる。俺は一旦落ち着いて、
「実は、妻の雫は……少し、デリケートな事情がありまして……普通の服を着ることが、まだ難しいんです……俺が着ていたYシャツが、彼女にとって一番安心できる服なんです……だから、どうしてもその生地でドレスを作ってあげたくて……無理なお願いだとは分かっています……でも、どうしても、俺たちだけの結婚式にしたいんです」
と。梯さんに伝えた。すると梯さんは紙を取り出し、ペンで何かを書いて俺に渡した。
「こちらが、当式場で扱っているウェディングドレスの専門店となります……こちらの新造さんにお願いすれば作ってくれるかと」
と。教えてくれた。俺は梯さんに会釈して教えてもらったウェディングドレス専門店に向かった。
ウエディングドレスおーだーめいど。俺は大量のYシャツを持って入店した。すると、ちょうど新造と名札を着けた店主が店番をしていた。
「新造さんですか?」
俺は一応、聞いてみた。
「そうですが?」
新造さんは答えた。
「実は、この素材でウェディングドレスを作ってもらえないかと思いまして……」
「これは……Yシャツじゃないか!? 無理だ!」
「なんで、これで作って欲しいのか話を聞いてくれたら、納得できると思います」
俺は話し始めた。
「俺たちにとって、このYシャツはただの服じゃないんです……妻は、俺と出会うまでずっと、心に傷を抱えていて……このYシャツを初めて着てくれたとき、俺たちは一歩前に進めた気がしたんです! だから、このドレスは、俺たちの愛がどれだけ困難を乗り越えてきたかの証明なんです! どうか、そんな俺たちの愛を形にする手伝いをしていただけませんか?」
と、話を聞いた新造さんは
「分かった……君と妻さんの大切な衣服の生地で作った最高のウェディングドレスをデザインしよう!」
制作を承諾してくれた。俺は雫と初めて出会った日を思い出す。暑い夏の日。まだ真昼なのに月が見えていた日だった。
