〜真昼の月と見慣れない制服〜

 読み聞かせボランティア初日。私は今日から読み聞かせのボランティアに参加した。最初は、保育園。3歳から4歳の子どもたちにあのふれあい児童養護施設の女の子が私をモデルにして作ってくれた『シンデレラ』を読み聞かせる。原作のシンデレラとはまた違う世界観を知ることになるかも。私は律さんのYシャツではなく、律さんがくれた前開きのパーカーを着た。男物のYシャツで外出歩くのは、恥ずかしいし一般的には不自然な服装に見えるから。
 保育園、3歳児と4歳児クラス。私がクラスを覗くと、小さな子どもたちが怪我でもするんじゃないかと心配するほど騒いでいた。すると、1人の男の子が女の子のジャンパーのファスナーを開くようなイタズラをしていた。あとは、男の子同士が服を引っ張りあってお互いの服を破ろうとしていたり。私は怖くなった。もし、私があの中に入ったらパーカーのファスナーが開いて、肌をあらわにした姿を小さな子どもたちの前で見せてしまう可能性がある。そして、私はまたふれあい児童養護施設の子と同じく頬を叩かれてしまうかもしれない。そんな記憶が頭の中を駆け巡る。怖い。その一言が私の過去のトラウマを蘇らせる。私は体調不良を訴えて、初日の読み聞かせボランティアは中止となった。
 ひだまり荘、桜井家。私はダイニングで顔をうつむけていた。怖い。私はあの光景がまだ頭から抜けない。何回も同じ映像が、再生リストの動画みたいに自動再生されていく。手足がビクビク震えている。私が恐怖で震えていると
――ガチャ!
律さんが帰ってきた。
「また、書類審査で不採用だった……これで100社目だよ……」
律さんは、就活を始めているけど、いまだに採用をもらっていない。面接すら受けさせてもらえなかった。
「一体……俺の何が悪かったんだ! 不採用理由を教えて欲しい!」
律さんは、持っていた荷物であろうものを床に叩きつけた。すると、ダイニングで顔をうつむけて震える私を見たのか、近づいてきて、私の前に腕を回す。すると、ファスナーを開く時のフックに律さんの手が触れる。私は
《服がはだけちゃう! やめて!》
と。思い、1番の理解者である律さんの回した腕を振り払い椅子から立ち上がる。そして、律さんを見ずに肩を掴んで壁に向かって突き飛ばしてしまった。我に帰った時には、律さんは気を失っていて、倒れた椅子と落ちたシンデレラの絵本(児童養護施設の女の子が書いた)があった。
 体感数時間程度経過した。律さんは意識を取り戻すと、不服そうな顔をしながら自室に入ってしまう。かなり時間がかかっていた。私は恐怖心が癒えなくて、寝て忘れようと眠りについていた。律さんは、寝ている私に話しかけて起こそうとせず紙とペンを机に置いてクローゼットに身を潜めた。なんで寝ている私が知っているのかというと、その話を律さんから後日聞いたからだ。私は睡魔よりもトラウマが勝って目を覚ましてしまう。目はパッキパキだった。視界はぼやけていたが紙とペンが置かれていたのは、分かった。私は目をこすって視界を安定させる。ペンを手に取って、紙の上でペンを走らせる。すると、睡魔が私を誘い、寝てしまう。私が寝て数十分後、律さんが紙に書いたものを見た途端、財布を持って外出した。私は紙にこう書いた。
『パーカーの下に着る服がほしい』
と。律さんは何を買いに行ったのだろう。
 数時間後。律さんが帰ってきた。そしたら紙袋の中を漁って自室に籠もった。律さんはしばらく出てこなかった。私は気になって見てみると、律さんはTシャツとおそらくレディースのショートパンツを着てスマホでゲームをしていた。私は何も見なかったことにした。また私が寝落ちした時に律さんは部屋を出て、机にその着ていたTシャツとショートパンツが置かれていた。律さんが置いたのだろう。